第265話 温かく冷たい

「うまかったか?」


「うん。コウガお兄ちゃんご飯作るの上手だね。」


まぁこれしか作れないんだけどな、という言葉を飲み込み改めてミーシャを観察する。

着ている服もそうだが食べ方にしろ話し方にしろどことなく気品を感じる。

良いところのお嬢様であることは間違いないだろう。

もっともまだ貴族という階級は存在しないから大きな町の町長の娘とかそのあたりだろう。

さすがに国王の娘なわけないしな。

明確な貴族というものがないだけで国のお偉いさんの娘というのも十分に考えられるしな。


「腹いっぱいになったとこでミーシャの事教えてくれよ。なんでこんなとこにいるんだ?」


「うーんっとね、ミーシャ、、は、、、ね、、、。」


寝やがった。

よっぽど疲れてたのか空腹が満たされたためか満腹になったミーシャは机の上に突っ伏してしまった。

もう少しで空のさらに顔面から突っ込むとこだった。

さっきはミーシャにご飯を食べてもらううためにああいったが見ず知らずの男の前で熟睡するなんて危機感がないというか。

やっぱり子供だ。


「まっ、しゃーないか。時間は捨てるほどあるんだ、のんびりいくかな。」


そう呟くとコウガは机に突っ伏して寝てしまっているミーシャを抱きかかえる。

両手で抱きかかえたミーシャは驚くほどに軽かった。

服の上からではわからなかったが本来肉付きの良いはずの幼女体系がまるで老人のようだ。

それでもその顔だけはかわいらしさを残した幼女のものだった。


「はぁ、めんどくせぇ。」


疑う余地もないほどにめんどくさい案件。

それは分かっているはずなのにコウガは自分の腕の中で無防備に眠る幼女を自分が何とかしてやりたいと、漠然とそう思ってしまった。

長い間、人との触れ合いを避けてきた代償か腕に感じる温かさに自分の涙腺が緩むのを感じた。

止めようとしたがもう遅い。

止めどなくあふれ出てくる涙。

人のぬくもりとはこんなにも温かいものだったのか。

触れられるほどに近くにいる、自分の腕の中で眠りについてくれるものがいる、それだけのことなのに、それだけのことがこんなにも尊い事だとは。

人はきっと一人では生きていけない、このぬくもりがなければ人は人でいられない。

ミーシャのおかげで過去の罪が少しだけ許された気がした。


それはコウガが罪を犯し、180生きてきて初めて抱いた感情だった。



「この辺りで良いか。」


ミーシャをベッドに運び入れしばらく起きなそうなことを確認してからコウガは森の中へとその足を踏み入れてい見た。

理由はもちろんミーシャの痕跡を探すこと。

コウガはスキルを発動させ周囲の魔素に干渉する。

こうすることで魔法が使われた形跡、本来ここにあるべきではないナニカを見つけることができる。

簡単に言えば探索魔法なのだろうがコウガのそれは範囲と効果が桁違いだ。


「見つけた!あそこか。」


コウガは視界にとらえたその場所に向かう。

今度は魔素ではなく距離に干渉する。

視界にとらえた距離は約1キロ、普通に走っても1分もかからないが0になるに越したことはないだろう。

スキルを使い距離に干渉してしまえばその距離は0にでも100にでもできる。

180年もスキルの鍛錬をしていれば距離など自由自在に操れるようになる。


「俺の能力って最強、だよな、うん。」


コウガは目の前に現れたを一瞥すると思いため息をつく。

改めて自分の能力の異常さを自覚することで先ほど感じた温かさはとうに冷めきってしまっていた。

それは自分の能力だけではない。

目の前の光景もそれを助けるには十分だった。













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