第264話 ミーシャ
*
「ミーシャはどうしてここに?」
面倒そうな匂いがプンプンするが放っておくわけにもいかない。
迷子にしろなにか理由があるにしろ事情を聴かなければ町で預かってもらう事も出来ない。
できれば一人で町役場まで行ってくれるとありがたいのだが。
コウガが連れていけば誘拐犯と間違えられかねない、くらいには自分が怪しいやつであることを自覚している。
グー―ー、キュルキュル。
返事の代わりにかわいい音が聞こえてきた。
音の出所である本人は恥ずかしそうに顔を赤らめている。
だがおなかすいたも何か食べさせてくれとも言わない。
しかし言わないからと言ってこんな小さな子がおなかをすかせているのを放置して何も感じないほど落ちぶれてはいない。
コウガは無言で立ち上がるとおやじからもらった食料をいくつか持って台所まで行く。
台所と言っても野外で火を起こすのと大差ない造りだ。
コウガの料理など焼くか切る、これで十分だ。
「ほら、腹減ってるなら食えよ。」
コウガが差し出したのは肉たっぷりチャーハン、唯一の得意料理だ。
味付けは塩のみだから日本で作ってた時ほどではないがそれでも人様に出せるくらいにはおいしい。
コウガがここに居を構える理由の一つがこれだ。
この地域では稲みたいな穀物が取れるらしく米の文化があるらしく主食は米で賄われている。
日本の米には及ばないがそれでも米は米だ。
贅沢は言えないし米が食べられるだけましだろう。
「いらない、お母さんが知らない人にもらっちゃダメだって。」
表情と言葉が合ってない。
目はすごく物欲しそうに輝いて口元からはよだれが今にもあふれ出しそうだ。
親の教育がいいのだろうけどせっかく作ったんだから食べてほしい。
「じゃあさ、ミーシャ、俺の名前は?」
「コウガお兄ちゃん。さっき自分で言ってたよ。」
「ほらな、俺の事知ってるじゃん。いいから食えって、冷めたらおいしくないぞ。」
苦しい言い訳だがしょうがない。
ミーシャだってお母さんとの約束を破るわけにはいかないだろうし。
こんな苦し紛れの理由でもないよりはミーシャの罪悪感は少なくなるはずだ。
真面目な子みたいだし頭もよさそうだ。
だからこっちの意図も理解してくれる、勝手にそう思ってた。
まさか雷に打たれたような表情で固まっているとは思わなかった。
「コウガお兄ちゃん、天才?ミーシャコウガお兄ちゃんの事知ってるよ。だからコウガお兄ちゃんから食べ物をもらってもミーシャは悪くない。お母さんに怒られない!」
「・・・・・。そうだな、冷めないうちに食べちゃえよ。」
「はーい!」
やっぱり思い過ごしかもしれない。
ミーシャは年相応の女の子だ、うん。
スプーンにすくったチャーハンを一生懸命フーフーしながら口へ運んでいくミーシャを見て認識を改めるコウガであった。
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