第263話 出会い

「ただいま。」


町を出たコウガは誰もいない家の扉を開く。

日本にいた時の癖で誰もいないとわかっているのについただいまと言ってしまう。

待ってくれている人などいないのに。


ここは町から離れたところにある小さな渓谷のそばにある小さな平屋。

魔物が出る森の手前にある為かコウガがこの家を見つけた時にはすでに中は荒れ果て廃屋と化していた。

住む場所を探していたコウガはすぐに家を補修し腰を据えた。

町に行くには多少不便だが川に行けば水が、森に入れば食料も手に入る。

あの一件以来人とのかかわりを避けるコウガにとっては願ってもない立地だった。



「さてと肉屋のおやじにもらったモンはさっさと分けちまわないとな。」


前に袋の中に生ものが入っていたのを知らなくて放置してしまいひどい悪臭を放つまで腐らせてしまったことがある。

それにサバイバル能力ゼロだったコウガも今では火を起こしたり狩りをしたりとそれなりに生活できるくらいにまではなっている。

人は学習する生物だ、うん。


「いたっ!」


うん?

変な声がした。

それもかなり小さい子のような高くか細い。

子供などとは久しく関わり合いのないコウガは思わず身構える。

声の出所はコウガが放り出した袋のあたりからだ。

まさかあのおやじ袋にへんなものでも入れたんじゃないだろうな?

もしかして魔物でも紛れ込んだか?

そんなことを考えながらコウガは恐る恐る袋に近づく。

大の大人が情けなるくらいのへっぴり腰になっているが元来のコウガは臆病な性格だ、と本人以外は思っている。

それが異世界に来て興奮し混乱していたためにあの惨劇が起きてしまった。


「なっ、、、!」


声の正体がわかった。

女の子だ、それも5歳くらいで服はかなり薄汚れてしまっているが元はそれなりに上等な服だったであろうことを思わせる造りをしたものを着ている。

女の子のきれいな薄ピンク色の髪の毛も服と同じうように土で汚れてくすんでしまっている。

そして髪の色と同じピンクの瞳は不安げに揺れていた。

コウガはできるだけ穏やかに見えるであろう笑みを頑張って顔に張り付けてみた。


ちなみに声の出所は袋の中ではなく袋の下だった。

おやじ、疑って悪かったな。



「おい。」


コウガはとりあえず女の子を袋の下から救出し椅子に座らせる。

女の子は何が面白いのか空中で足をぶらぶらさせながらコウガの顔を見ては楽しそうに笑っている。

久しくまともな会話すらしていないコウガにとってはハードモードもいいところだ。

小さな子供、それも女の子となんてどう話しかけていいのかすらわからない。

声をかけたのは良いがその後が続かない。


「お兄ちゃんだーれ?」


コウガが目の前の女の子の扱いに困っていると女の子の方から声をかけてきた。

最初に声を聴いた時と同様に子供特有の高い声っだ。

だが見た目の年齢にしてはしっかりとした口調で話す子だ。

ませているといったほうが適切かもしれないが。


「俺はコウガ。君は?」


「ミーシャ!」











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