第259話 リベンジ

「はぁー。どうすっかなぁ。」


村から引き返し元の寝床に戻ったコウガの気分は冴えない。

これなら空腹に耐えながらもみじめな暮らしをしていた方数段ましだった。

村人からもらった食料で確かに腹は満たされた。

だがそれ以上に心が飢えている。


痛い。

こんな胸の痛み、俺は知らない。


恐怖に見開かれた瞳。

俺の存在を否定し認めようとはしない空気があの村に満ちていた。

あれが人外の力に対する一般人の感覚なのだろう。

だとすると俺は、、、、。


この世界で俺は受け入れられない存在。




「まっ、いつまでも落ち込んでたってしゃーない。俺らしくもない。うっし、行くか!」


長い夜が明ける。

昨夜に引き続き今日も快晴だ。

眩しいばかりの朝日を背に、コウガは新たな決意を胸に身支度を整えていた。

昨夜は久しぶりにきちんとした食事をとったおかげかぐっすりと眠れた。

おかげで沈んだ気分はだいぶましになった。

まったく傷が残っていないというわけではないが前向きに次のことを考えられるくらいには回復した。


コウガは昨夜村人からもらった食料を山で見つけた様々な物と一緒に大きめの葉っぱで包む。

なんとも頼りない鞄だがないよりはましだろう。

サバイバルスキルの一つでもあれば木の皮やツタで鞄でも作れたかもしれないがないものをどうこういっても仕方がない。

まぁせめてナイフの一つでもあればいいのに、とは思うけど。


「よし、とりあえず南にでも行ってみるかな。」




「つっかれたぁー。だいぶ遠くまで来たよな、うん。ここまで来てようやく一つ目の村かぁ。しんど。」


山を下りた時には水平方向にあった太陽はすでに真上を通りすぎ、再び水平へと戻ろうとしている。

神様パワーで身体能力が強化されているので山を下りてからここまで全力で走ってきた。

時速で言えば60キロくらいか?

我ながら恐ろしいスペックだ。

けどようやく村にたどり着くことができた。

今度こそ。。。


「誰だ⁉」


木の柵で覆われた村へ近づくと村の入り口にいた門番らしき男に声をかけられた。

よそ者を警戒しているのはここでも変らないらしい。

だが今回はコウガとて心得ている。


「待ってくれ。俺は助けてもらいたいだけなんだ!村が魔物の襲撃でみんな燃えちまった。頼む、しばらくの間で良いんだ、村においてくれないか。」


これがコウガの考えた策だ。

魔物の襲撃で村がなくなることは珍しくないはずだ。

つい昨夜も魔物の襲撃があったばかりだ。


「魔物の襲撃で村が燃えただと?貴様、見慣れない恰好をしているな。どこの者だ?」


しまった。

なにかまずかったか?

門番の警戒がまったく解けていない。


「ああ、本当だ。狼みたいな魔物が群れで襲ってきたんだ。あの山を越えたとこにある村だよ。」


嘘は言っていない。

魔物の襲撃があったのも事実だ。

相手を騙すには嘘の中に真実を混ぜる、これは常識だ。

それにこの世界の情報伝達が俺の移動速度より早いはずがない。


「山を越えた村、シュビッツ村か?、、、、、すこし待っていろ。」


あの村シュビッツ村って言うのか。

似合わないな。


「それにしてもこれは、、、、、。どっちと取るべきか。」


コウガは戻ってきた門番とその彼が引き連れてきた今にも枯れそうな老人。

そしてその後ろに控える大勢の武装した若者達を見てコウガは内心身構える。


昨夜と同じ過ちだけは繰り返すまい。

あの痛みは、一度で十分だ。












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