第256話 人生ハードモード

コウガが異世界に転生して1週間。

異世界転生ものの定番、俺TUEEEをする気満々だったコウガは飢えていた。

夢と現実はやはり違う。

アニメや小説のように力のある主人公が受け入れられるわけがなかった。

人外の力を人は恐れる。


魔物に襲われているか弱い少女を助ける?

それこそ物語の中だけの話だ。

現実はもっと残酷。

まず、魔物に襲われているものなどそうそういない。

時代の終わったすぐあとだからか、皆警戒心が強く襲われるような状況を作らない。

それは魔物も同じで迂闊に人里へ降りてきて狩りをするようなことはなかった。

つまり力をもっていようとなんの役にも立たない。


「はぁー、腹減った。村の人からなんか恵んでもらうか、なんてな。はぁ、腹減った。。。」


コウガが最後にまともな食事をしたのはいつだっただろうか。

下手したら転生する前だったかもしれない。

場所を移動しようにもどちらへ向かえばいいのかすらわからない。


唯一の望みは村の者たちだったがそれももはや叶うまい。

転生直後、浮かれまくっていたコウガはそのままのテンションで人里へと下っていったコウガ。

転生する際に、言語理解のスキルは得ていたのでそこに問題はなかったはずだ。

しかし、時代が悪かった。

突然現れた見知らぬ者をおいそれと歓迎できるような時代ではない。

しかもわけのわからぬ事を口走っては他の者にまくしたてる始末。

村人に余裕がなかったことももちろんだがコウガの行動はとても村人に受け入れられはしないものであった。

よって村を追われたコウガは一人で山中に潜み、今日の飢えを凌ぐ始末。


「いっそのこと村を誰かが襲ってくれればいいんだよな。そしたら村を救った英雄!みたいな感じで受け入れられるのに。」


どうにか食べられそうな木の実を見つけ、それを食べながらわずかではあるが飢えを癒す。

希望に満ちていた一週間前、しかし今口から出るのは愚痴ばかりだ。

せっかくの異世界転生も山の中で自給自足な生活をするだけでは何も面白くない。

何よりこのままではそう遠くない未来に餓死する。

飽食の国で育ったコウガにはサバイバルのスキルも自活のスキルもあるはずがなく、後は村を襲うしか生きる道はないとまで思い詰めていた。

村を襲ってしまえば後に待つのは魔王ルートのみ。

せっかくの異世界転生で頼まれてもいないのに魔王になるなどごめんだ。

だが死ぬくらいならそれもありかもしれない。

そんなところまで考え始めていたころ、状況が変わった。


神はコウガを見放さなかったのだ。

異世界に来て一週間、雲一つなく、遠くの星まで見えるきれいな夜。

飢えに耐えかねた魔物が村を襲った。



「待ってろ、今行くからな!こっからが俺の英雄譚のはじまりだぜ」



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