第254話 クエレブレ

「また一人、この地に招かれざる客が来たようじゃのぅ。」


人の力では到底たどり着けない山の頂。

中腹より下は雲が広がり眼下の光景を眺めることはできない。

この世界で最もソラに近い場所。

そしてここは世界のあるべき姿を見ることのできる神秘の場所としても知られている。

地上の人々にとってはいつかたどり着きたいエデンの園、と言ったところか。

だが、たとえ人がたどり着くことができたとしても当然ここは人が生きてけるような環境ではない。

生命維持の最低ラインをはるかに下回る気圧、気温、酸素。

普通の人ならば5分と持つまい。


そのいわゆるデスゾーンと呼ばれる、標高で言えば300㎞を超えるその山の頂上に彼女の住処はあった。

そして彼女は今日も世界を見下ろす。


「今度ので5回目か?しかし今度の奴は反応が弱い、これでは正確な場所まではわからぬか。奴のこともあるしのぅ、引き際のようじゃな。」


先ほど感じた気配をもとに探知をかけるがその成果は芳しくなかった。

気配が弱いというのも原因の一つだろうが一番の原因は第三者による妨害。

誰かなど見当はついている。

それにそもそもこの世界で最強種族と呼ばれている竜族が一人、この赤き竜クエレブレに遠方から干渉できる者など限られている。

だがこの世界の理を知るものであればいくら干渉する力をもっていようと竜族を敵に回すような真似はしない。

この世界の理に縛られず、竜族をも敵に回す怖いもの知らず。

クエレブレにとっては厄介なことこの上ない。


そう、異世界からの来訪者、鳴神 光雅なるかみ こうが

奴をどうにかしない限りクエレブレの野望は叶わない。


「コウガ、まずはお主をわが物にしようかの。」



「また一人来たようですね。」


目の前に広がる大海原、穏やかに波打ってはそのしぶきに太陽の光が反射してきらめいている。

四方を海に囲まれはこの小さな島ではどこからでもこの大海原を望むことだができる。

潮風がつらい時もあるがたいていはこの景色を見ればそんなこと些細な出来事にしか思えなくなる。

そして自身の悩みすらも、、、、。


だが今はその雄大な景色に浸っている時ではない。

沖合の遥か先に感じたあの気配。

それは神がこの世界に異世界から魂を招いた時の力の漏れ。

つまりまたこの世界に新たな来訪者が訪れたというわけだ。

無視するわけにはいかない。

わずかな気配に神経を集中させ来訪者の送り込まれた地を探す。


「これは、、、もう少し東ですかね。どうも気配がつかみにくい。隠遁にかけた能力を与えられたのでしょうか。ですが大体の位置は分かりましたし、後は直接探すしかありませんね。」


世界を渡る際に与え得られる能力、それで気配を隠しているのであればいくらコウガと言えどそう簡単に見つけることはできない。

諦めて意識を戻そうとしたとき、転生者とは別のある気配を感じた。


「この気配は、クエレブレですか。彼女も気づいたということですね。ですがあなたの思い通りにはさせません。」


コウガが感じたもう一つの気配、それはスルトと並び古の魔王と称される竜族が一人、クエレブレだ。

どうやら彼女も転生の気配を感じ取り探っているらしいがコウガと同じく正確な場所まではつかめていないらしい。

コウガはクエレブレに対し妨害の魔法を発動、そして反撃が来る前に自身の意識を離脱させた。

この世界に来てから場数はそれなりに踏んではいるが最強種族と言われる竜族などできれば戦いたくはない。


「私だと言いう事は気が付くでしょうね。避けられない運命、とでもいうのでしょうか。」


そうつぶやくとコウガは太陽の光を浴びて煌めく海に背を向け歩き出す。

もしもその姿を他の者が見ていたとしたらそれはまるで神に背信するかの如く、光を捨て闇を求めるが如く人々の目に映ったであろう。


己が信念を貫くとき、その道が闇か光かなどはかんけいない。

その道の先に何があるか、だ。

果たしていきつく先は地獄か天国か。







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