第252話 冬麻一族
*
「あっ、コウガ様だ!おかえりなさい!ねぇねぇ、巨人の里へ行ったんでしょ?お土産ある?」
巨人の里を見下ろすようにして立っている巨大樹の根元にここヤマトとをつなぐ転移門がある。
それはスルトとコウガによって厳重に守られてはいるがいつ何時敵がこの門を使って現れないとも限らない。
よってヤマトではこの転移門付近は立ち入り禁止地区とされている。
のだが目の前の少年はそんな掟など意に返さず、ここを遊び場としてしまったらしい。
何度注意しても、監視の目を光らせてもどこからか入り込んではこうして無邪気に遊んでいる。
コウガとしてはそんな無邪気さが可愛くもあるが頭痛の種でもある。
「ランガ、ここで遊んではいけないと何度も言っているでしょう。いう事聞かない悪い子にはお土産の果物、あげませんよ。」
「僕はここから悪いやつらが入ってこないように見張ってるんだ。僕は男だから、僕がみんなを守るんだ。」
そう言ってランガが指さした方向にはおそらくランガの手作りであろうつたない防護柵やバレバレの落とし穴、そのほかの罠があった。
どうやら本当にみんなのことを守る気でいたらしい。
かわいらしい英雄もいたものだ。
コウガは誇らしげに胸を張るランガを見て心の底から暖かい気持ちになる。
そしてそれと同時にこの少年に夢を見させてあげられない事実にひどく胸が痛む。
「そうでしたか。ですがランガ、あなたもまだ守られる者なんですよ。ここに居たらみんなが心配します。さぁ、私と一緒にかえりましょう。」
ランガの気持ちは誇らしく、うれしい。
だが彼はまだ子供、守られるべき側である。
彼がみんなを守れるようになるまで、彼がこの手を引けるようになるまで。
みんなを守る。
それはこの地の長である私の役目だ。
*
「コウガ様、おかえりなさいませ。またランガの奴が迷惑をかけたみたいですんません。」
「謝る必要はありませんよ。子供はあれぐらい元気じゃないといけません。ですがあそこは危険です。彼が入れないよう、手を施しましょう。必要とあれば結界を使ってもかまいません。」
ここはコウガの屋敷。
そしてここに居るのはこの地の上役とで呼ぶべきものたち。
上役たちが集まって行う事といえば会議以外に他ならない。
「でしたらその役目、この
そう言って名乗りを上げたのは言葉の穏やかさとは対照的な派手な衣に身を包んだ男だった。
この世界では見ないような独特の形をした衣、その背中には金の竜が描かれている。
そう、それはまさしく現代で言うところのスカジャンである。
「かっかか。氷河兄ちゃんは相変わらずかたいのぅ。そんなもんまかしとき、でええんとちゃうか?」
そしてスカジャン男こと、氷河に横から野次を飛ばすものが一人。
こちらも派手なスカジャンを着ている。
造りや色は氷河が着ているものと同じだったが背中に描かれているのが竜ではなく虎だ。
そして背格好が氷河とよく似ている。
ある一点をのぞいては。
「凍花、コウガ様の前やぞ。それにお前は女やったらもう少し女らしくせぇ。こっちがはずいわ。」
「コウガ様はそんなん気にしたりせぇへんよ。それに女だ男だなんてここじゃあ関係あらへん。そんなん氷河兄ちゃんもようわかっとるやろ?」
第三者が見ても兄弟とわかるほど似ている二人は兄弟げんかを始める。
しかしこれもいつものことなのか止めようとするものはいない。
皆、慣れた表情で見つめるばかり。
だが唯一、コウガが止めに入る。
これもいつもの流れだ、二人を止められるのはコウガしかいない。
「兄弟仲がいいのは分かりますがそこまでにしてください。あまり時間もありませんし。では転移門周辺の警護は氷河、凍花、あなたたちを筆頭に冬麻一族の者に任せます。冬麻の者であれば結界術で横に並ぶものはいないでしょう。頼みましたよ。」
「はっ、お任せください。」
「まかしとき。」
古来より結界術に秀でた一族、冬麻。
かの一族は彼ら家のみに伝わる秘術をもって結界を張る。
そしてその一族の者は皆、冬に関係するものを名に持つという。
何を隠そう、冬麻
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