六章 ヤマト
第251話 戦乱後の平和
*
「なんだぁ?そんな顔しやがって。」
「はぁ、なんでもないよ。じゃあその竜と戦った時のことを詳しく説明してくれ。あとは俺たちで考えるから。」
ったく、古の魔王がこんなバカだとは思わなかった。
人々に与えていた畏怖を返せ。
本体が封印されているから、なんて言い訳は俺は信じないからな?
こいつは正真正銘のバカだ。
「そうだな、話すって言っても大した話はできないが。さっきも言ったようにあれは200年くらい前の出来事だったな。」
そう言ってスルトはどこか懐かしそうな眼をしながら過去を語り始めた。
話しだしたスルトのその表情は聞くこっちも身を引き締めってしまいそうな表情だった。
まぁ俺は騙されないけど!
*
今から約200年前、一つの時代が終焉を迎え再び希望と平和が世界を満たしていた。
魔王たちの勢力争い、そしてそれに抗う者ども。
それはまさに地獄、日々多くの者が傷つき倒れ、命ある者は例外なく疲弊していた。
そんな中、二分された魔王たちが激しくぶつかり合い、そこで世界は一度終焉を迎えた。
そして長きにわたる戦いに飽きた魔王たちは不可侵条約ともいえる調停を結び、隠居ともいえる生活に入るのであった。
そうして訪れた平穏の日々を多くの人々が享受していたのだった。
しかし戦いに明け暮れ、その中で生きてきた者の中には闘いのない平穏な日々を受け入れられない者がいた。
かつてのスルトも、その一人であった。
「ああぁーーーー。暇だ。ったく、平和って言うのも考えものだな。こんなんじゃ腕がなまっちまう。こうなりゃ新参の吸血鬼にでもしかけに行くか?」
「何を血迷ったことを。無駄な殺生がないことは良い事です。それにこの平和があるのもあなた方が調停を結んだからではないですか。」
遠くに栄える街並みを眺めながらスルトが不満をこぼす。
戦乱の時には焼け野原となったこの森も今ではだいぶ自然が戻っている。
一時は壊滅状態まで追い込まれた巨人の里が再びこうして栄えることができているのはひとえにこの地に住む精霊と他ならぬスルト自身のおかげだ。
それにも関わらず不満をこぼす長を窘めるのは巨人族と昔から交流のある島国の長、コウガだ。
「そうはいってもなぁ。暇なもんな暇だ。そうだ、コウガ!お前の国から何人か面白そうなやつ連れてこいよ。俺が鍛えてやる。」
いい思いつき、とばかり飛び上がるスルト。
そしてそれをため息とともに見つめるコウガ。
「なりません。スルトも知っているように私たちの国は特殊です。それゆえにいつ他の国から狙われないとも限らない。リスクは強力避けるべきなのです。それに様々な国から流れ、戸惑い、傷ついてきた彼らをむやみに刺激したくはありません。」
「相変わらずつまんねぇな。せっかくの異世界人だぜ?腐らせておくのはもったいないだろ。っつてもここでお前を敵に回すのもバカくせぇからな、ここは引いてやる。」
「彼らは神の気まぐれで選ばれてしまった被害者です。不慣れな土地でこれ以上傷つけたくはない。」
コウガが納める地。
そこはかつてより異界より招かれたものたちが流れ着く島でもあった。
異界の者が集まるその島は他の国とは異なった発展をし、またその地に受け継がれている魔法や術も特異なものであった。
故にその存在は秘匿とされ、その島の存在を知るものはいない。
交流のある巨人、スルトを除いては。
そしてスルトと魔王クエレブレとの戦いを語るには何をおいてもこの島の存在は無視できないものである。
全ての起因は異世界人の集まる島、ヤマトにあった。
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