第248話 前災

「レヴァンさん、どう?」


「ああ、だいぶましになった。」


金色の棺の部屋を出たあと、一行はユキトの家に落ち着いた。

落ち着ける場所、という条件に当てはまるのがユキトの家のみらしい。

落ち着けない家、という方が気になるがここは空気的にも突っ込まないほうがよさそうだ。


「いくらあんたが闇のもんやからいうてもあそこに行くんは自殺行為や。よう無事でいられたな。」


ましになったとは言えレヴァンさんの顔色はまだ青いまま。

いつも通りを装ってはいるがやはりあの魔力にはそうとう堪えたらしい。

ユキトやアオイが部屋に入らなかったのもうなずける。

闇に生きる吸血鬼族でも耐えられない魔力にリュースティアは全く問題なく耐えられた、という事実にはみんな目を瞑るらしい。

もっともレヴァンさん以外はルナの力で守られていたことを知らない。

それなのに誰も突っ込んでこないとか俺はいったいなんだと思われているのか、、、。


「ふん、貴様のような軟弱者と一緒にするな。私は私自身の務めを果たしたまでだ。怖気づいて己が役目を放棄している貴様らとは違う。」


弱ってるのに何でそう喧嘩ごしでいくのかな。

というかレヴァンさんってもっと思慮深いタイプだろ?

毒舌ではあるけどさ。


「なんやて?もういっぺん言うてみぃ。誰が軟弱者やて?」


ほら、言わんこっちゃない。

ユキトが切れた。

つか初対面の印象はエセ関西人らしくお調子者で裏が読めなさそうなタイプだと思ってたんだが思ってた以上に感情型だよな。

それに短気だ。


「聞こえなかったのか?貴様らは軟弱者だと言ったんだ。」


「ぶっ殺したる。」


っておいいおい、レヴァンさん⁉

あんたそんなに喧嘩っ早かったか?

そんなことより止めないと、ここでやり合われたらヤバイ。

クッソ、めんどくせぇ。



「ユキト、やめるでござる。」


「レヴァンさん、ストップ!」


リュースティアは瞬動で素早くレヴァンさんの前に出るとその勢いのままレヴァンさんの攻撃を流す。

そして反対側では同じように高速でユキトの前に出たアオイがユキトの攻撃を止めていた。

どうやらこれで二人を相手にする必要はなくなった。

まぁアオイが飛びだすのが見えたから俺はレヴァンさんの方へ行ったんだけどさ。

それよりもアオイの方が冷静とは少し意外だ。

最初から殺意全開だっただけに。


「アオイ、邪魔すんなや。こいつはワイらを馬鹿にしてんねんぞ!いっぱつ痛い目みしたる。」


「ユキト、それは事実でござる。拙者たちは何もできないのでござるからな。彼の言う通り役目を放棄したたと同じでござる。」


「せやけど、好きで放棄したんとちゃう。青はこない言われてくやしくないんか!」


「悔しいに決まっているでござる。けどそれは彼に向かうものではござらん。己の弱さに、無力に向けるものでござる。彼は関係ない。」


「くっ、、、、。」


納得はしてなさそうだけどとりあえずアオイに免じて怒りを納めてくれたらしい。

思いっきり不機嫌な表情で席に着く。

アオイもそれ以上言うことはないのか、だまってその隣に腰を下ろした。

どうやら一件落着ってとこらしい。


「ほら、レヴァンさんも。こんな子供じみたことやってないですわりなよ。」


相手が下がったからか、興が削がれたからかレヴァンさんも剣を納めた。

そして黙ったまま席に着く。

ったく、かわいくないやつめ。


「そろそろ話を始めるがいいか?」


騒ぎが落ち着いたのを見てスルトが声をかかけてきた。

これからどんな話を聞かされることか。

始まる前ですらこれだ。

この先が思いやられる。

どうか乱闘騒ぎにはなりませんように。

そして俺が仲裁に入るなんて面倒な事態にはなりませんように。


人知れずそんなことを願わずにはいられないリュースティアなのであった。





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