第247話 棺の中身

ここまで来ては後戻りなどできない。

リュースティアは棺に手をかける。


その様子を棺を挟んだ向かい側で眺めているスルトの表情は抜け落ちている。

そのため彼の思惑を読もうにもなんの手助けにもならない。

今のリュースティアを支えているのはわずかバカリズム近くに寄ってくれたレヴァンさんだけ。


自分の隣に信頼できる男がいる。

自分を信頼してくれる男がいる。

逃げ出すわけにはいかない。


そしてリュースティアは棺を開いた。


「これがこの村の、そして俺の秘密だ。」


「・・・・・。これは、、、、?」


言葉がでてこない。

目の前の出来事に思考が追い付かない。


棺の中に横たわるもの。

それはリュースティアが想像していたような禍々しいモノでも、腐敗した死体などでもなかった。


棺の中にいたのはスルトだ。

それも今目の前に立っているスルトそのまんま。

双子、いやまるで生き写しのように何から何までそっくりだ。


だが、両者を別の個体として分けるものは確かに存在している。

それは魔力の質。

目の前のスルトはどちらかといえば巨大な山のように厳格で、澄んだ魔力をしている。

一方、棺の中で眠るスルトの魔力はどこまでも禍々しい。

体に纏わりつくような不快感を持っている。


「俺は俺であり俺じゃない。そしてこいつは俺じゃないが俺でもある。」


「禅問答か?生憎そういうのは得意じゃないんだ。分かりやすく説明してくれ。」


いきなり何を言い出したかと思えば意味不明なことを言い出しやがった。

だがスルトの言葉をそのまま受けとるならコイツらは同じ一人の人間ってことか?

それにしては二人のどちらからもきちんと生命の息吹きというか生気というものを感じる。

ますますわからない。


「きちんと説明はするさ。とりあえずはここをでるよう。お前は平気かもしれんがお前の連れはそうでもなさそうだ。」


スルトの言葉でハッとした。

そうだ、レヴァンさん!


「はぁはぁはぁ。少し当てられただけだ、心配ない。」


心配ないって顔は青ざめて立ってるのがやっとって感じじゃないか。

意地張るとこはここじゃないだろ。


スルトの言うようにさっさと部屋を出る方が賢明だろう。

ここにいても何があるわけでもなさそうだし。

リュースティアは棺の蓋を元に戻す。

心なしか纏わりつくような禍々しい魔力が減った気がする。

もしかしたら蓋にも結界魔法が施されているのかもしれない。


それよりもレヴァンさんだ。

どうにかしてあげたいけど光魔法や聖魔法を使うわけにもいかないし。

ここは影魔法で魔力を遮断するしかない。

それだけでもだいぶましになるはずだ。

と言ってもこの部屋から離れれば平気だろうけど。


「リュースティア様、感謝する。だが影魔法発動まで時間がかかりすぎている。鍛練を怠らない方がいい。」


あれー?

俺、怒られてるね、これ。

まぁたしかに最近は影魔法の鍛練怠ってたけどさ。

今それ、言う?




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