第246話 棺
*
ごくり。
唾をのみ込む音がやけに大きく感じる。
それは心音も同じだ。
嫌に耳につく。
張り詰めた空気、そして封印が開かれた扉からあふれ出てくる禍々しい魔力。
小一時間もこんなところに居たら気が狂いそうだ。
この先に何があるのか。
見たいけど見たくない。
見たらもうここへは引き返すことができない、そんな不吉な予感に襲われる。
「リュースティア、こっちだ。ユキトとアオイは無理しないでそこで待ってろ。」
スルトはこの魔力と正対しておきながら何も感じないのか?
人間じゃない、、、、。
あっ、そうだった。
こいつ巨人だったわ。
とまあこうやって一人でボケれるくらいにはまだ余裕があるらしい。
自分でもびっくりだ。
さすがにこっから先はふざけられる自信はないが。
それより無事に再び陽の光を浴びれる自信もない。
かといってここまで来て怖気着くわけにもいかない。
リュースティアは光の精霊であるルナの魔力を借り、光の性質を帯びた魔力で全身を覆う。
簡易結界だ。
光の精霊の力を使えば簡易結界だろうとそこら辺の結界には劣らない。
「おう、じゃあじっくっりと拝ませてもらうか。レヴァンさんはどうする?」
リュースティアの精一杯の強がり。
どんなときでも虚勢を張ることは忘れない。
だって男の子だもん。
「私も行こう。」
レヴァンさん、神!
リュースティアの心は少しだけ軽くなった。
*
「なっ、なんだこれ、、、。」
スルトに案内されて入った部屋。
そこは廊下と同じく薄暗い闇に包まれていた。
だが完全な闇ではない。
かろうじてだが部屋の調度品を確認することができる程度の明かりはある。
しかし明かりかあろうとその部屋には特にこれといった家具はない。
ただ広い空間があるだけだった。
だがただの広い部屋、とは決定的に違う点が一つだけある。
それは部屋の中央に置かれた金色の棺。
部屋には窓も魔石灯もないにも関わらずうすぼんやりとあたりが見渡せるのはこの金色の棺がわずかな光を発しているおかげらしい。
そしてそのわずかな発光を頼りに棺を観察すると棺に何か絵のようなものが描かれているらしいことに気が付いた。
「地獄絵図、か。悪趣味ですね。」
二の句を告げないでいるリュースティアの代わりにレヴァンさんがつぶやく。
レヴァンさんが悪趣味だとつぶやいたのも無理はない。
その棺には人々が想像したことのある地獄そのものが描かれていた。
燃え盛る炎の中、苦悶を顔に浮かべる人々。
怒り狂ったような狂気の目を向ける剣を持った男、その男の片手に握られているのは幼子の首。
そしてその男の周りには首のない死体の山。
狂気を宿す瞳。
苦痛を叫ぶ口。
蛆が沸く傷口から血を流す体。
悲鳴を聞くことをやめた耳
絶望に打ちひしがれた心。
まさしくそこは地獄だ。
だが不思議とリュースティアはその棺から視線を逸らすことができない。
これ以上見たくなどないのに見なければいけないと言う使命感に襲われる。
体が言うことを聞かない。
リュースティアは引き寄せられるように棺の横まで歩いていく。
そして謎の誘惑に抗う事の出来ないまま、棺に手をかけた。
開けてはいけない。
わかっているのに目の前の不気味な棺を開かずにはいられない。
覚悟を決め、大きく息を吐く。
そして、リュースティアは棺の扉を開いた。
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