第244話 玄関

「影から人だと?もしかしてお前、吸血鬼か?」


「ええ、お久しぶりです。スルト様はお変わりないようで、と言いたいところですがそうでもないようですね。」


突如としてリュースティアの影から現れたレヴァンさんに驚くかと思いきやスルトはただ感心しただけだった。

ちょっと残念。

俺の腹心の部下を自慢したかったのに。

まぁ後ろの二人はそのまま絵になりそうなくらい驚いていたからいいとしよう。

それよりもレヴァンさんの前に会ったことがあるような口ぶりが気になる。

それに変わりなくない、とはどういう事だろう?


「お前と以前にどこかで会ったか?」


どうやらスルト自身も記憶にないらしい。

まぁ何千年も生きていたらいちいち人と会ったことなんて覚えてられないか。

けどレヴァンさんがスルトと過去に会ったことがあるとするならば、それはおそらく古の魔王関係。

つまりヴァンが関わっている。

それなのにスルトが覚えていないなんてことがあるはずがない。

ありえない。

なぜならスルトの容姿にヴァンの食指が動かないはずがないから。

リュースティア目線で見てもかっこいい部類に入るスルトをあの変態吸血鬼が放っておくはずないのである!

それは実際に貞操の危機を体験したリュースティアが言うんだ。

間違いない。


「ええ、100年ほど前に主の供をしておりました。」


わざとか?

なんとなくレヴァンさんがスルトを試すというかヴァンの事を口にするのを避けている気がして仕方がない。

頭の切れるレヴァンさんのことだ、きっと考えがあるに違いない。

だからここは黙っておくのが正解かな。

そうでなくても極力黙っていたい。

だってさ、自分の思う通りにいかなかったときのレヴァンさんってすっげー怖いんだもん。

ビビッてんのかって?

ええそうですよ。

俺は誰よりも怒ったときのレヴァンさんが怖いです。



「100年前?お前の主はリュースティアではないのか?100年前にこいつが生きていたとは思えないが。」


「いえ、リュースティア様ではなく以前の主です。」

 

「以前の主、、、、。そうか。」


スルトはそれだけをつぶやくとそれ以上は興味をなくしたのかリュースティア達に背を向けて自分の家へと入っていってしまう。

以前の主、という単語を聞いてスルトが何を思ったのかまではわからないが何かしら思ったことがあったのだろう。

そうでなければあんな顔はしないはずだ。

そしてその思ったことがおそらくこの村の秘密に関係している。

根拠などないただの勘だが間違ってはいない確信がリュースティアの胸にはあった。


「なぁレヴァンさんは何か知っているのか?」


スルトの背中が見えなくなったあたりでレヴァンさんにさりげない風を装って聞いてみた。

答えが得られるとは思っていないが何かしらの反応はあるだろうと思ってのことだった。

元から期待はしていない。

いないんだけどね、、、、、。


リュースティアに問われたレヴァンさんは可愛そうな子を見る目で一瞥すると、何も言わずにスルトの後を追って彼の家の中へと姿を消した。


んっもう!

相変わらずクールなんだから!


内心でそう茶化すことで心の傷を見ないふりをする。

そしてリュースティアも黙って二人の後を追い、玄関をくぐる。

おそらく前の二人とはかなり違う気持ちで、、、。



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