第240話 利便性の追求

「もうええで。この人たちは今からお客さんや、盛大にもてなすで!」


リュースティアの内心のツッコミを知ってか知らずか淡々と話を進めていくユキト。

どうやら敵対するような事態は避けられたみたいでうれしいよ。

けどな?

けどだぜ?

まずは等身大の巨人の説明をプリーズ。


「ユキトがそういうなら間違いはないのだろう。初めましてだな。俺はこの集落の長をやってるスルトだ。」


「は?」


「いやだから俺が長で名前はスルト。初対面の相手にそんな顔される覚えはないんだが。ああ、そうか巨人族に見えなくて戸惑っているのか。」


そう言って一人で納得顔の自称巨人族の長スルト。

確かにこの人からは強者特有のにおいがする。

特に敵意を持たれているわけではないのだがその全身から発せられる雰囲気に当てられついピリピリしてしまう。

俺はそれなりに強者と対面してるから免疫があるけどそうじゃない奴らは蛇に睨まれたカエルみたいに固まってしまっている。

この雰囲気に似つかわしくないのは不敵な笑みを浮かべてるヴィルム兄弟だけだ。


その顔は闘いとはっきり言っていた。

まぁそんなことやらせないけど。


「いや、それもだけどそれよりもっと重大なワード出てんだろ⁉えっ?スルトってほんとにあのスルト?厄災の巨人の?古の魔王の一人?」


まさかいきなり目当ての人物が見つかるとは。

それもかなり想像と違う。


「ああ、俺がそのスルトだ。証明しろって言われても難しいがお前ならわかるだろ?」


なんのためらいもなく肯定されてしまった。

しかも意味ありげな視線をこっちに向けてくる。

力強そうな外見とは違い、小さな丸い瞳は幼子のそれを連想させる。

だがその瞳には幼子が持つ輝きはなく、どこまでも深い闇があるだけだ。

だがその闇は堕ちた者のソレではなかった。

言うなれば長い時の中で多くの希望を見出し、同じくらい多くの絶望を味わった目。

その瞳を見ただけで納得した。


この人は本物だ。



「お前ならわかってくれると思ってたよ。じゃあ行こうか。」


何となく釈然としない言い方をされた。

まぁいいけど。

そしてリュースティアの返事も待たずに歩きだしてしまった。

ユキトも異論はないらしくスルトの後に続く。


いやさ、誰か説明くらいしてくれよ。

その場に取り残される形になったリュースティア一行は強くそう思った。



「どうした?はやく来ないと森に欺かれるぞ。」


リュースティア達が付いてきていないことに気が付いたスルトが後ろを振り返り声をかけてきた。


ほらまた、すぐそういう気になるワード出すんだから。

森に欺かれるってどういうことだよ。


「だから行くってどこに?」


とりあえずみんなを促しスルトの後に続きながらまず一つ目の疑問を口にした。


「俺たちの村に決まってんだろ?」


・・・・・・・。

俺たちの村?

えっと、じゃあさっきまで目の前にあったTHE巨人の村!みたいなやつなんだったんだ。


「ああ、あれか?あれはお前らみたいな客人用のモニュメントみたいなもんだ。」


まさかのモニュメント。

あの規模のものをわざわざ客人の為に作るとは。

イメージの巨人の集落まんまだったもんなぁ。


「あそこには誰も住んでないのか?」


さすがに実用性ゼロなんてことはないだろ。

仮にも巨人なんだし、あのサイズでも問題なく住めそうだもんね。


「住んでないぞ?」


「は?」


「わざわざ言うまでもないと思っていたが。考えてもみろよ。俺たち全員が巨人の姿で暮らしたらこの大陸ですら手狭になっちまう。それにでかいやつはとにかく食う。多くの資材を必要とする。だから金もかかる。そんな不便なこといつまでもすると思うか?」


つまり?


「コスパを考えて人化の魔法を覚えた。やっぱ今の世の中便利かつ楽が一番だな。」



おい、いいのかそれで、、、、。

ファンタジー、仕事しろ!



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