第235話 世界一可愛い俺の娘
*
「というわけなんだ、わかったか?」
馬車の中でルノティーナにこれまでの経緯をかいつまんで説明する。
と言ってもたいして話せることは多くない。
これから巨人の集落に向かうというくらいだ。
「目新しいことがないってことがわかったわ。」
後ろの荷台から御者台に向かって顔を突き出すようにしていたルノティーナが面白くなさそうにそんなことを言ってきた。
ルノティーナのくせに生意気な。
「なんでもかんでもそうほいほい進まないの。いろいろと対策する時間が取れたんだ、悪い話ばかりでもないだろ。」
「・・・リュー、おかわり。」
リュースティアとルイセントの会話にまったく興味がないスピネルは隣でひとり朝食を食べていた。
開いているのかいないのかよくわからない瞳でパンを頬張る姿はなかなか愛らしい。
狼人族というだけあって夜行性なのかスピネルは朝に弱い。
だからと言って夜に強いというわけでもないが。
「ごめん、その味はもうないんだ。違う味でもいいか?」
スピネルがおかわりと言って差し出してきたグラスを片手で受け取りストレージに入れてあった別の飲み物をグラスにいれて渡してやる。
飲み物を注ぐときに馬車が揺れたのはご愛敬。
馬車を扱うときは手綱から手を放してはいけません。
「・・・・・・・・・ありがと。リューも?」
お気に入りの味じゃなかったからかスピネルの返事の溜めがいつもより長かった気がする。
ちなみにこのリューも?というのは俺に飲むかを聞いているのだろう。
最近ようやくスピネルの短い語句の中から何を言いたいのか理解できるようになった。
「サンキュ、一口くれ。」
「ん。」
スピネルがリュースティアに体を寄せる。
そして手に持ったグラスをリュースティアの口元に近づける。
グラスには先ほどまでスピネルが使っていたストローがささっている。
スピネルとリュースティアは血のつながりこそないが親子だ。
間接キスなど中学生じゃあるまいしいちいち気にしない。
なんのためらいもなくストローに口をつけ中の液体をすする。
うん、さすが俺。
完璧。
「あー!あー!リュ、リューにぃ、それってかっ、かかかかか、、、、、、」
いたよ、ここに。
脳内中学生の馬鹿が。
顔を真っ赤にしながら二の句を繋げられないルノティーナを冷ややかな視線で見つめるリュースティア。
ふと、リュースティアの脳内をこの前ルノティーナにキスされた場面がよぎった。
あれはよくて今回のはダメなのか。
こいつの羞恥はよくわからん。
「ありがと、眠かったら寝ててもいいんだぞ?」
顔を真っ赤にして悶えている阿呆は放っておいて隣に座るスピネルとの親子の時間を続ける。
こういう平和な一場面があるからやってられる。
「・・・・・・・ん。そこ。」
「ここか?」
後ろで横になるという選択肢はないらしい。
首を横に振られてしまった。
だがそのあとにスピネルが示した場所は少し以外な場所だった。
「今日のスピネルは甘えたがりだな。怖い夢でも見たのか?」
リュースティアは膝の上に座るスピネルにやさしく問いかける。
そう、スピネルが指定した場所とはリュースティアの膝の上だったのだ。
スピネルらしくない提案に戸惑ったものの馬車の操作に支障もなかったので彼女の希望通りにしてやった。
「・・・・・わかんない。」
そういうとスピネルは目を閉じリュースティアに体重を預けるように寄り掛かってきた。
尻尾の毛が若干くすぐったい。
安心したのか体重を預けるとスピネルはすぐに眠ってしまった。
安心しきった寝顔がまた可愛い。
この安らかな寝顔だけは何がなんでも守ろう。
そう改めて決意をしたリュースティアなのであった。
やっぱり俺の娘は世界一可愛い。。
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