第233話 間に合った風来坊
*
「よく追いつけたな。」
今にも死にそうな風太にとりあえず手持ちの回復薬を与える。
多分、一番の功労者は風太だろう。
「愛の力よ!」
風太の労を労う間もなくルノティーナが力強く答える。
置いて行かれたことはすでに彼女の中ではなかったことになっているらしい。
愛がないから置いて行かれたとは思わないのだろうか?
「あ、主。私はもう、、、休ませていただきます。。。。」
回復薬のおかげで話す気力を取り戻せたらしい風太が消え入りそうな声で言う。
そしてルノティーナの返事を待たずに姿を消した。
おそらくこのあとに続くであろう主の無理難題を察知でもしたのだろう。
正しい判断だ。
「あー、行っちゃった。もうひとっ走りしてもらおうと思っていたのに。」
「鬼か!」
「え?冗談に決まってるじゃない。ここまですごく頑張ってくれたから風太の好きな果物を上げようと思ってたのよ。」
こいつが言うと冗談に聞こえない。
というかあれは絶対にマジの顔だった。
風太、生死に一生を得たな。
「つかマジでなんでここまでこれたんだ?絶対に追いつけない距離なハズだったんだけどな。」
リュースティアがこうまで言うのも無理はない。
ルノティーナが俺たちを追跡し始めたのはマップ機能で知っていた。
だが風太の速度と距離からして確実に追いつくことは不可能だった。
そしてここから先は文字通り未知の領域だ。
この先に進めばさすがの風太と言えども追跡はできない、つまりルノティーナだけは完全に置いてこれたと思っていた。
だからスピネルを御者台の隣に座らせマップを確認したとき、すぐ近くにまで彼女が迫っていたことに驚いた。
さすがにそれを振り切って先に進めるほどリュースティアは神経が図太くない。
というわけで待っていたのだがやはりルノティーナはうるさい。
「それが私にもよくわからないのよね。南の大陸まで来たのはよかったんだけどそこで完全に追跡の糸が切れちゃったのよ。進んでも同じところに出るし絶対に誰かが邪魔してたんだわ。」
ウカじいの結界か?
ルノティーナに悪意がないから追い返すだけの効果が働いたってことかな。
こういう細かい配慮はさすが神の眷属ってだけある。
どっかのくそ爺とは大違いだ。
いっそのこと神を代わった方がいい。
ウカじいも難ありのエロじじいだけどさ。
「じゃあどうしたんだ?」
ウカじいの結界はきちんと働いていたにも関わらずルノティーナがここまで来た。
納得できない。
結界を破るには力だけでなく知力も必要だ。
それがこいつにあるとは思えない。
「ふっふっふ。私にかかればあんなの簡単に突破できるのよ!」
「嘘つくな。」
自信満々の声とは裏腹に目が泳ぎまくっている。
嘘がバレバレ。
つかさっき自分にもわかんないって言ってたしな。
そもそも結界に気づいていない奴が結界を解除できるわけがない。
「うう、そこまで食い気味に断言しなくてもいいのに。けどさっきも言った通りよくわからないのよね。急に道が開けたと思ったら一本道がずっと続いていたのよ。で、その道を走ってきたらここにでたの。」
ウカじい?
ちら。
村の入り口まで見送りに来ていたウカじいを振り返る。
てへっ。
片手を頭にやり舌を出すウカじい。
確信犯かこの野郎。
そもそも爺さんがそんな仕草やったとこで可愛くもなんともねぇんだよ、、、、。
その絵面は誰得だ。
「ちなみに、お前どうやってその森を探索してた?」
ウカじいがルノティーナをここに通した。
それも魔法で道まで作って。
つまり俺たちの知り合いだという事に気が付いたという事だ。
しかも俺の方を見ながらニヤニヤしている。
嫌な予感しかしない。
「え?もちろんリューにぃって叫びながら。」
何を当たり前のことを聞いているの?的な感じで答えるルノティーナ。
それくらいならどうってことはない、ふつうならな。
だが、俺は知っている。
「それだけか?」
「うーん、愛しのティナちゃんが探してるとか。私とのあの夜は遊びだったのね、とか。リューにぃの浮気者、とか。甲斐性なし、責任取りなさいよ、とかかなぁ。」
はぁ、やっぱりか。
そんなことばっか口走りながら俺の事探してたらウカじいじゃなくても俺と鉢合わせさせたくなる。
はっ、だから出発がこの時間なのか。
この時間しか道が開かないとか怪しいと思ってたんだよ。
ウカじいの能力なら時間なんて調節できるに決まってるし、単にルノティーナと合わせたいだけだったという事ならば納得できる。
いや、余計な事をしたという事に納得はしないけどさ。
「ほっほっほ。若いのぅ。」
リュースティアが一人頭を抱えているとウカじいのそんな声が聞こえてきた。
そして再び思う。
雲行きが怪しくなってきたな。
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