第232話 出発の朝
*
「ではそろそろ行くとしよう。」
早朝、それもまだ日が昇るよりも前。
村の入り口には荷造りを終えた馬車が二台並んでいた。
馬たちもいつでも出発ができる状態で準備は万端。
あとは乗り手を待つだけだ。
だが、そんなやる気十分の馬たちとは対照的に眠そうな眼を擦りながらふらふらと立っているものが約5名。
声をかけたルイセント以外はまだ夢から覚め切らないらしい。
ちなみにレヴァンさんは早くも敵情視察に出かけている。
影の中を移動できる彼は馬も転移用の魔法陣いらない。
やはり影魔法は便利だ。
まぁレヴァンさんほどの練度がなかったら使うだけで魔力はほとんど持ってかれるし影移動してもどこに出るか予想もできないんだけどね。
さすが数百年分の練度を積んだだけはある。
「おい、貴様ら、いい加減にシャンとしろ!もしかしたら今日このあとスルト、もしくは魔王軍と戦うことになるかもしれんのだぞ。」
いつまでもふらふらしているリュースティア達に痺れを切らすルイセントだったが叱咤されれば起きるというものでもない。
「ふ、ふぁぁー。だったらさぁ、なんでもう少し寝かせてくれなかったわけ?」
あくびをしながらリュースティアが尋ねる。
昨日、ウカじいとの話のあとよく眠れなかったんだよね。
おかげでただでさえ寝不足なのにこんな早朝に出かけるなんて聞いてない。
「この時間でなければ道が開かないというのだから仕方がないだろう。それよりもさっさとその馬鹿を起こせ。」
道が開かない?
ああ、ウカじいの結界のことか。
なんて不便な。
あっ、ちなみにルイセントのいう馬鹿とは足元でまだ眠っているエルランドの事だ。
ルイセントに氷漬けにされ、ボコられてからは客人用のテントで治療を受けていたらしい。
ルイセントが手加減をしていたのか、治療の腕がいいのかはた目にはすっかり回復している。
リュースティアが治癒魔法なり万能薬を与えてやればよかったのだと気が付いたのはウカじいと会ってからだった。
リュースティアは自己治癒能力が高いのでそもそも回復薬や治癒魔法を必要としない。
そのため最近はまったく出番がなく、忘れていたのだ。
「病み上がりなんだしもう少し寝かせてやれよ。馬車は俺とルイセントが一台ずつ扱えば問題ないだろ。」
この村に来てエルはさんざんだったからな、俺は少しでも優しくしてやろう。
「わかった、ではさっさと乗れ。出発するぞ。」
リュースティアの考えを読んだのかルイセントはおとなしく自らが扱うことになった馬車の方へ歩いていく。
両手には半分寝たままのリズとシズを引きずりながら。
リュースティアは残ったエルを荷台に放り込みスピネルを御者台の隣に座らせる。
だがリュースティア自身は御者台には座らずに馬の横に立ったままだ。
そんなリュースティアを不審に思ったルイセントが後方の御者台から声をかけてきた。
彼女はすでに手綱を握りいつでも出発ができる状態だ。
当然その声には怒りが乗せされていた。
「何をしている?さっさと出発するぞ。時間は限られているんだ。」
「いや、まあそうなんだけどさぁ。」
どことなく歯切れの悪いリュースティア。
ルイセントはなんとなく不安になる。
だが皆を起こす前に調べ限りでは周囲に魔物や悪意を持った存在はいなかったはず。
それならばリュースティアは何をしたいのだろうか?
その答えはすぐに出た。
ルイセントの後方からやかましいほどの叫び声が聞こえる。
「み、みつけたぁー!!もう逃がさないわよ!」
それは相棒である風太にまたがった一人の少女だった。
顔を見なくてもわかる、ルイセントはついため息をついてしまった。
そしてそれはリュースティアも同じだったようで前方からも同じようなため息が聞こえた。
「ルノティーナ、よく追いつけたな。」
それは屋敷に残してきたはずの少女。
風来坊の二つ名を持つSランク冒険者、ルノティーナ・ヴィルム。
雲行きが怪しくなったな。
ルイセントとリュースティアは空を見上げそんなことを思うのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます