第231話 尊敬と恨み

「ほぇ?」


俺たちがこの村に着いてから余裕の笑みを崩さなかったウカじいの顔が崩れた。

笑みを浮かべる余裕すらなく顎が外れんばかりに口を開け呆けている。

どことなく達成感すらあるから不思議だ。


まぁ、内容が内容なだけに釈然としないがこれはこれでありかもしれない。

仕返しというほど恨みが溜まっていたわけではないがルイセントの分とでも思ってもらおう。


「いや、だからめちゃめちゃ知り合いだったって。創造神ってあれだろ、ギャンブルが好きでいい加減。それでいて他人任せの無責任じじい。」


えっ?

恨んでるのかって?

別に恨んではいませんよ、はい。

それなりに楽しく過ごしてますから。

まあ最初のバグとか?

説明不足感が否めない事とか?

勝手に使命を与えられたりとか?

ええ、別に恨んではおりません。




「そうじゃ、そうじゃ!それに加え女好きで手癖の悪いお方じゃった。よく女神や精霊たちを口説いては痛い目に合っていたのぅ。それのしりぬぐいをわしがどれだけやらされたか、、、、。」


懐かしそうに眼を細めながら話すウカじい。

おそらくその目は過去の日々を映しているのだろう。

だが一つだけ確認しておきたい。


「ウカじいはほんとにあの人のこと尊敬してたのか?」


さっき主がどうのこうのと言ってた時は目を輝かせんばかりに話していた。

だが今の発言には闇が含まれていた。

懐かしそうに話してはいるが言葉というか雰囲気と言うかところどころに棘がある。


「あったりまえじゃ。わしほどにあのお方を尊敬し、かつ恨んでいた者はそうはおるまい。」


「恨んでるって言っちゃってるから!それ尊敬してるって言わないからね⁉」


もしかして俺が想像してるよりも闇が深い、、、、のか?

うん、立ち入らないほうがいいな。

過去の思い出は二人だけの思い出ってことで二人の胸の内にしまっておいてください。


「ほっほっほ。そうかもしれんのぅ。じゃがな、相手を知り、相手もまた自分を知る。そして憧れや嫉妬、行為や嫉み、様々な感情を抱いていくんじゃ。一人に対して一つの感情しかもっていないなどという事はあるまい?みんな相反する感情をそれぞれにもっている、そしてそのバランスがうまく保たれているから人間関係はうまくいく。だから相手を尊敬しつつも恨むという感情は何も不思議ではなかろう?」


「うーん、嫌いな相手に好意なんて抱くか?好きな相手に嫌なところを見つけるとかならわかるんだけどな。」


若いリュースティアにはいまいちウカじいの言っていることはピンとこない。

自分の嫌いなタイプの人間の中に好意の持てる部分をみつけるという行為自体よほど大人でない限り無理だ。

普通なら極力関わりたくない。

俺も曲がりなりにも社会人なわけであったから嫌いな人とでも仕事をして最低限のコミュニケーションを取らないといけないことは重々承知している。

だがそこで必要以上に関係を築こうとするものなどいないだろう。

人付き合いをネット上で済ます現代ならなおさらだ。

合わなけば切ればいい。


「ほっほっほ。お主はまだ若いからのぅ。いずれわかるときがくるじゃろう。だからそれまでは死ぬでないぞ。お主が何者でなぜあのお方を知っているのかはわからぬし詮索するつもりもない。おそらくわしらが知りえぬ深い事情があるのじゃろうしな。」


丘の上に腰掛けていたウカじいが立ち上がりながらそんなことを言ってきた。

もしかしてウカじいは全て知っているんじゃないのか?

この先の結末も踏まえて。

ふとそんなことを思ったリュースティアは視線を上げる。

だが隣に座るリュースティアからは立ったままま正面を見据えるウカじいの表情を伺うことはできなかった。

ウカじいの思惑もどこまで知っているのか、何をしたいのか、何にもわからなかったがリュースティアは立ち上がる。


「ありがとう、ウカじい。俺はウカじいの言っていることが今は全く理解できない。だから理解できるようになったらまたここにくる。その時にはあんたの主っていうあのくそじじいの話をしてくれよな。」


理解できるようになったらまたここに来る。

それは死なないというリュースティアの意思表示でもあった。

当然そのことをわかっているウカじいはただ一言。


「待っておるよ。」




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