第228話 スパイからの報告

「とりあえずこの大陸の奥地に巨人の集落があるってことは分かったんだ。奥に進もう。」


放っておくとまた言い合いを始めそうな二人を横目にリズたちに確認を取る。

勝手についてきてしまったとは言え、ここまで来たら一緒に行くしかない。

100%とは言い切れないが全力で守ろう。


「リュースティア、こんな耄碌じじいのいういことを信用する気か?」


納得できないような表情で、それでいて視線だけは冷たくウカじいを見据えたままのルノティーナがこれ見よがしに意義を唱えてきた。


耄碌じじいって自分も大して歳はかわんないだろ。


「じゃあ他に有益な情報でもあんのか?この情報が正しいのか間違っているのかはわかんないけど現状、俺たちのも持っている情報はこれだけなんだ。行くしかないだろ。」


まったく、文句を言ううなら代案を出してほしい。

代案のないルノティーナは黙るしかない。


「じゃあ明日の早朝ここを出発しよう。アルたちの動きも気になるところだけど休めるときに休んでおこう。この先いつ休めるかわからないからな。」


「あは、それなら心配いらないよ。僕たちはまだそっちに着いてすらいないからねぇ。」


そういうわけで会議終わり。

そんな弛緩した空気を切り裂くようにふざけたような声が響いた。



「この声、、、マルスか⁉」


こんなふざけた声の持ち主な一人しか知らない。

面白いことが好きなイカれた男。

よくわからんが俺たちのほうが面白そうだと言ってスパイになった。

飄飄としている奴だが抜け目ない。

だから俺としてはいまだにこいつを信用してはいない。


「あは、そうだよぉ。君ってば全然僕の事信用してないでしょ?せっかくこの僕がスパイを買って出たって言うのにさぁ。この通信用の魔道具だって全然つながらないし。なぜか今回は繋がったんだぁ。」


「お前みたいに簡単に主を裏切るやつ信用できるわけないだろ。」


通信用の魔道具と聞いて思い出した。

秘密裏に連絡を取るため、お互いに一つずつ持っていたんだった。

これは何回も仕掛けがないか確認しているので安全だ。

すっかり忘れていた。

だけど繋がらなかったとはどういう事だ?

特回線を切っていたわけでも魔力不足だったわけでもないはずだ。

ストレージに入れていたがその状況は今も変わっていない。


後で考えよう。

リュースティアは一度思考を放棄し、ストレージにしまっていた魔道具を取り出す。

そしてみんなから見えるように氷の上に浮かべた。

するとしばらくしてマルスの顔が現れた。


「あは、ようやく顔が見れた。なんだか少し大人になったんじゃない?あれ、そっちの子たちは初めて見るねぇ、可愛い子たちじゃないか。みんな君のお妾さんかなぁ?あっ、そっちは現王の付き人でしょ?人間の時の。」


相変わらずのにやにや笑いを浮かべながら。

ただしその目は笑っていない。

まるでこちらの戦力を値踏みしているかのようだ。

だからこいつは信用できない。


「人の家族を無遠慮に見てんじゃねぇよ。さっさと本題を言えよ。用がないなら切るぞ。」


スピネルが怖がってんだろ。

映像越しでもマルスの膨大な魔力と存在感は伝わってきてんだよ。

いくらヴァンとの闘いから強くなったとは言え、いきなり九鬼門第三席が現れたらその力に当てられる。



「つれないなぁ。だから最初に言っただろ?僕たちはスルト討伐に向けて出発した、だけどまだ南の大陸についてすらいないんだぁ。足止めを喰らっちゃってさぁ、そこにいるおじいさんにねぇ。」






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