第226話 何千年越しの覚悟
*
「なぁ、ルイセント。お前はウカじいの事を知ってたみたいだけど知り合いなのか?」
いつまでもエルランドのことで干渉に浸っていられるほど俺たちには時間的余裕があるわけじゃない。
何しろアルたちの軍勢がいつ巨人を攻めに来るかわからないからな。
アルたちよりも早く巨人を見つけて体制を整えておく必要がある。
だから休息所として寄ったこの村で長居するわけにもいかないのだ。
さっさと問題を解決するに越したことはない。
「ああ。さっきウカじいの話を聞いただろう?こいつは神の眷属、つまり神代の時代から存在しているんだ。私とはそのころからの付き合いだ。この時代ではお互いの正体を知っている唯一の存在だな。まぁ貴様にも知られているので唯一ではなくなったがな。」
へ?
ってことはさっきの話マジなの?
ほんとにこの爺さん神の眷属なわけか。
「ほんとの話だったんだ。つかそもそも神の眷属がこんなとこで何してるわけ?神様たちと一緒にい神界に引きこもらなかったのか?」
眷属って言うくらいなら神様について行ってもおかしくないと思うんだが?
もしかしてこの爺さんもルイセントみたいに神の怒りでも買うようなことしたのか?
あっ、わかった。
女神にセクハラでもしたんだ。
うん、この爺さんならあり得るな。
「ほっほっほ。確かに女神さまの尻は魅力的じゃがいくらわしでもそんな恐れ多いことできんよ。わしは主である神に頼まれた任についているだけじゃ。」
勝手に人の心を読まないでほしい。
思っていることが駄々洩れとか結構恥ずかしいからな?
それにしても神が自らの眷属に与える任か。
興味あるな。
「ほっほっほ。なに大したことではないわぃ。この世界の行く末を見守る。それだけじゃよ。」
「だからさぁ、人の心を勝手に読むなよ。それよりもこの世界の行く末?そんな言い方、まるで滅びに向かっていることを知ってるみたいじゃんか。知ってるなら何とかしろって、自分で作った世界だろうが。」
なんか無性に腹が立った。
その神ってやつがのを俺をかけごとの担保にしたくそじじいと重なる。
まぁあのくそじじいがそんなにすごい神なわけないし?
きっと関係ないんだろうけどさ、なんか既視感を感じる。
「そう言うな。神には神のルールがある。私たち亜神にもな。だから神だからと言ってなんでもしてやれるというものではない。この世界に残された亜神はただ見守るだけだ。発展しようが滅ぼうがな。」
どこか遠い目をしたルイセントが言った。
脳内ではただ見ていることしたできなかった世界の崩壊の場面が流れているのかもしれない。
救えなかった時代を、人々を。
決して消えることのない痛みとしてルイセントとウカじいの中に居座っているのかもしれない。
「ん?けどいいのか?ルイセントは今回俺たちに協力するような真似をして。」
「構わん、覚悟はできている。たとえ今回のことで神の逆鱗に触れ転生し、知識を紡ぐことが叶わなくなろうが、この生を生きるだけだ。」
そういうルイセントの視線は遠くではなく近くを見ていた。
その視線こそがルイセントが今を選んだ証だ。
そしてその近くに戻した視線の中には当然エルランドもいる。
多分彼女の瞳は彼しか映していないのだろう。
彼女は神に逆らってまでエルと生きることを選んだ。
どれほどの覚悟が必要だっただろうか。
不死を捨ててまで、かつての主を捨ててまで。
神という強大な存在に逆らってまで。
一人の男との少ない時間を選んだ。
なんとなくセンチな空気が流る。
完全にみんなを呼び戻すタイミングを失った。
というかルイセントがらしくなさ過ぎて気まずい。
そう急に乙女になられちゃどう接していいのかわからなくなる。
「ほっほっほ。恋する乙女、というわけじゃなぁ。いいのぅ。ほれ、さっさとさっきの可愛い子たちをこっちに戻さんか。わしは女の子が見たいのじゃ、あんな化石ばばぁののろけなど興味ないわ。」
ウカじいナイス!
安心しろ、後で骨は拾ってやる。
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