第222話 絶対零度

「ヤバっ!くそ、ルイセントのやつ。」


ルイセントがブチ切れて即死魔法、しかも範囲魔法を行使しやがった。

もうわずかな猶予もない。

すでに8割は魔法発動の準備が整っている。

いくらなんでもそんなわずかな時間ではあいつの魔法に耐えうるだけの防御魔法は展開できない。

ならここは逃げるに越したことはない。


「手荒なのは勘弁してくれよなっ。」


リュースティアは残されたわずか数秒の時間でその場にいた者たちを近くに居る者から順に自身の影の中へと放り込んでいく。

ルイセントの絶対零度エターナルブリザードは物理的影響はあるが空間までは干渉しない。

つまり別空間である影の中へ避難してしまえば絶対零度エターナルブリザードの影響は及ばない。

それにさっき、無詠唱で魔法を発動できるあいつがわざわざ時間を使う詠唱をしていた。

だが完全詠唱ではなかった。

本来は10節くらいの詠唱を3節、確かあの部分は範囲指定の部分のはずだ。

つまりあいつはわざわざ時間をかけてでも詠唱をすることで範囲魔法の範囲を絞った。

それの意味するところを考えるならば村にまで被害を出すつもりはないらしい。

なら俺は万一に備えみんなを俺の影の中に避難させ、村まで退避すればいい。



エル?

あいつは知らん。

自分で何とかするだろ。

それにあいつは炎の使い手、そう簡単には凍らない。





「ったく、ふざけんなよな。俺たち全員を殺す気か?」


村まで退避していれば安全だと思ってたらそれは完全に思い過ごしだった。

普通に村も巻き込む範囲で魔法が発動されてたよ。

死ぬかと思った。

ならなんで生きてるかって?

そんなん直前で俺も別空間に逃げたからに決まってんだろ。


「死んでないのであれば問題ない。それに貴様はあれくらいでは死ぬまい。」


悪びれる様子もなく言ってくれちゃってさ。

信頼されていると言えば聞こえはいいが納得できん。


「貸しだからな。それよりもさ、詠唱で範囲絞ってたからてっきり村は安全圏だと思ってたんだけど?」


「ああ、それか。いくら私でもあの村までは距離が近すぎるから無理だ。詠唱をしたのはあの村よりも外に行かないようにするためだ。それにしても初めて見たはずなのにその魔法の効果と種類、ましてや詠唱の意味まで見抜かれてしまうとはな。」


あれー、貸しの部分はスルーですか?

まあいいけどさ、それよりもなんで魔法を見抜かれたとか悔しそうなこと言ってるくせに顔は嬉しそうなんだ。

俺が魔法に詳しくなったのはルナがいろいろと教えてくれるからなんだが。

俺自身も興味があったことは確かっだがルナの情熱が半端じゃない。


「まあそれなりに勉強はしてるしな。つかあのじいさん知り合いだろ?殺しちゃってよかったのか?」


さすがにこの光景を見たらあの爺さんがどういう人なのか知らなくても生きているとは思えない。

というかこの魔法の範囲内にいた生物は例外なく凍ってるな。

あたり一面きれいなまでの氷彫刻が出来上がってる。

そのおかげというかせいというかさっきまで熱くて死にそうだったけど今は程よく涼しい。


「知るか。あんなやつなど何度でも死ねばいい。それよりもリズたちはどうした?」


胸が小さいの気にしてるんだ。

まぁ前はともかく今はエルフの女性だしな。

俺は小さいのも大きいのも大好きですが?


「俺の影の中に避難させてる。つかエルは?いつもならそろそろやかましく絡んできそうなんだが。」


ほんとはもっとはやくルイセントに文句を言いに出てくると思ってたんだが、、、。

あいつに限って周りの木と同様に凍っているわけないしなぁ。


「ほっほっほ。ここで凍っておるぞ。」


「はっ⁉おい、ルイセント、こいつマジで凍ってるぞ!」


「おい、なぜ貴様は生きている?」


は?

なぜ生きているって、、、。


ルイセントの言葉で気が付いた。

こいつあの爺さんじゃん!






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