第220話 先の不安と娘の笑顔

「リュー、お前からな。」


門番の男性との話を終えたルイセントがリズたちの様子を見てくると言い残しその場を去ったあと隣のエルがそんなことを言ってきた。

顔はいつもらしからぬ真剣な表情をしていたので一瞬なんのことを言っているのかピンとこなかった。

だがすぐに一つだけ思い当たることに気が付いた。


「さっきのルイセントの発言か?あいつなりの冗談だろ、てかなんで俺からなんだよ。もともとはエルが自分で蒔いた種だろ。」


「リュー、残念ながらあいつは冗談が言えるようなユーモアセンスなんて持ち合わせていない。 つまり、さっきの発言はマジだ。」


いや、わりとユーモアセンスあると思うよ、彼女。

ルナとのやり取りなんて爆笑もんだし。

彼女の素を知った今だと存在そのものがユーモアだと思う。


「いや、魔王戦の前に主戦力を殺すようなことさすがにしないだろ。良し悪しはともかくあいつは賢者だ。」


さすがに私情で人を殺すような奴には見えなかったし俺はさっきの発言なんて全く気にしていなかったんだよね、実際。

だからエルは何をそんなにびくびくしているのかがわからなかった。

けど、次のエルの発言ですべてがわかった。


「リュー、お前には教えといてやる。この世には蘇生魔法ってのががある。そして、ルイはそれを使える。」


蘇生魔法、だと、、、、、?

それってつまり死んでも生き返るという事か。

さすがに万能ではないだろうけどルイセントならへまはしないだろう。

つまり、あいつなら俺たちを殺して生き返らせることが可能。


ふっ。

聞きたくなかったぜ。

このファンタジー世界が!




「・・・・リュー。」


ルイセントはリズたちを見てくるとしか言わなかったので残された俺たちは手持無沙汰に何かアクションがあるのを待っていた。

すると足によく知っている感触を感じたので下を見ると予想通りスピネルがいた。

なんだかこの感触、ひさびさだなぁ。

癒される。


「どうかしたのか?」


赤く輝く瞳が不安に揺れているのをリュースティアは見逃さなかった。

やはりまだ外が怖いのだろうか。


「・・・・・・変。」


「変?具体的には何が変なのかわかるか?」


うーん、俺の索敵にはなにも反応はない。

獣人の直感か?

自分の能力を過信するつもりはないがスピネルの言う変には危険は少ないはずだ。


「・・・・・・・聞こえる。」


聞こえる?

獣人の得に狼人族は五感に優れている。

だから俺たちには聞こえていなくてもスピネルにだけ聞こえる、という可能性は十分にある。

だが俺には聴力に特化したスキルがある。

その俺に聞こえないという事はスピネルの気のせいか、スピネル個人に対するもののどちらかだ。

前者はともかく、後者だとしたら厄介なことこの上ない。


「なんて言ってるのかは、、、わかんないか。スピネル、大丈夫。俺の大事な一人娘は何がなんでも守るから心配すんな。心配なら手つないでるか?」


足にしがみつき不安そうな表情でこちらを見上げるスピネルを安心させるように頭をなでてやる。

すると少しは落ち着いたのか目を細め、しがみついていた手からも力が抜けた。

よかった、実はしがみつかれてかなり痛かったんだ。

スピネルも自称師匠のルノティーナのおかげというかせいというかレベルが上がって力がついてるからふつうに骨が折れるかと思った。


よく我慢できたなって?

そんなの父親の意地だ。


「・・・・・リューの隣、久々。」


普段の平坦な声が少しだけ弾む。

それにつられたの頬が緩みたまにしか見れない笑みを見せる。


あぁ、くっそ。

やっぱりかわいいな、俺の娘。

普段からもっと甘えてくれていいのに。


スピネルならいくらでも甘やかしてあげるのにさ。




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