閑話 賢者の1日
※
賢者ルイセントの朝は早い。
日の出と共に目を覚まし簡単な身支度を整え朝の瞑想を行う。
魔法を行使するものとしては精神の鍛練は欠かせない。
朝の清々しい空気を肺一杯に吸い込み血液を通して全身へ巡らせる。
その身体中をめぐる清々しい空気が次第に魔力を込んだものへと変わる。
その切り替わりを感じたところからが瞑想だ。
この世界を満たしている魔力を全身で感じる。
そして森の木々やそこに住まうものたちから溢れる魔力の流れを感じ、その流れに自身も預ける。
逆らおうとするのでもなく、受け流そうとするでもない。
森と、世界とひとつになるイメージだ。
[私は今、世界と1つに。]
※
朝の瞑想が終われば朝食。
野菜中心のバランスのいい食事を心がける。
もちろん炭水化物やタンパク質もしっかりと摂取する。
食事は生活の基本だ。
三食きっちり食べる、これは外せない。
午前中は基本的には職務をこなす。
といってもギルドやパーティー関係の書類に目を通したり魔法関連の書物の推敲をするだけだ。
楽しくはないが大変ではない。
エルランドの被害報告がないだけ今日はいつもよりましだ。
あいつはすぐに建物を壊す。
森を燃やす。
暴れだすと手がつけられない。
[不器用な奴だ。だがそこも、、、、。]
※
昼食も朝食と同様に栄養バランスの良いものを自分で作って食べる。
料理が得意と言うわけではないが何千年もやっていればそれなりにはなる。
もちろんリュースティア、あいつの作るものと比べられるようなものではない。
リュースティアが作る料理はどれもはじめて食べる味で想像を絶するほどに美味だった。
[リュースティアのごはんなら毎日でも食べたい。]
昼食後は視察を兼ねた見回り。
街の周辺や住民に異変がないかを見てまわる。
私には弟子のような人物はいないので基本は一人だ。
だがたまに孤児院の者や神殿の者と行動を共にすることがある。
彼らは異様に私のことを神聖視し、崇拝し、畏まった態度をしてくるから苦手だ。
エルフの賢者と言うだけで好奇の目に晒される。
慣れたとは言え不快なことに代わりはない。
へりくだる必要などないと言うのに。
[その点あいつらは賢者など関係なく接してくるな、、、、。]
視察を終えると数時間ほど時間が空くので魔法の鍛練をする。
鍛練の内容は日によって違うが内容としては新たな魔法の習得、そして反復、無詠唱魔法の効果をあげることなどが主な鍛練の内容だ。
最近は無詠唱に力をいれている。
これもリュースティアの影響だ。
エルランドから聞いた話では奴は無詠唱にも関わらず威力を一切落とすことがないと言う。
[気になる。]
[いったいあいつは何者なんだ?]
※
数時間の鍛練を終えた後は風呂に入って汗を流す。
エルフだからと言って森で行水をするわけではない。
家の風呂にお湯を張り肩まで浸かって疲れを取る。
お湯の温度は42度、風呂はもちろん檜風呂だ。
[お湯を張った時のこの香りがたまらない。つい顔が緩む。]
風呂から上がれば夕食を食べる。
といっても夕食は昼の残りに果物やパンが追加されるだけの代わり映えのしないものだ。
それを一人で食す。
[皆で食べた食事は楽しかったな。]
夕食後は読書の時間だ。
様々な書物に触れこの時代の知識をインプットしていく。
賢者としてはもっとも大事なことかもしれない。
だが最近はどうも読書がはかどらない。
[どうしてもリュースティアとエルランドのことを考えてしまう。]
[あの二人の顔が自然と浮かぶ。]
[心臓が早鐘を打つ。そして、、、、。]
「痛っ!なにするのよ!?」
「ルナ様、勝手に変なナレーション付けないで下さい。」
涙目で額をさすりながら目の前の人物を見上げる光の精霊ことルナ。
そしてそれを片手に分厚い本を持ちながら見下ろすのは賢者とことルイセント。
「相変わらずケチね、あなたは。ただの暇潰しじゃない。」
「なにが暇潰しですか。人が本を読んでいる隣でかってな回想をペラペラと。何してきたんですかあなたは。」
「言ったでしょ、暇潰しよ。」
「そんな分かりきった嘘を信じろと?」
確かにこの人は暇だから他人をおちょくるような性悪。
それは間違いない。
だが経験で分かる。
これはただの暇潰しではない、意味がある。
「そうよ。リューに嘘ついているあなたと一緒。」
悪質な嫌がらせだった。
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