第217話 兄の決意

「お兄ちゃんはさ、ルイセントさんが何か企んでるのを知っててどうする気?」


答は聞かなくてもわかる。

そんな気がした。


「あ?なんもしねーよ。」


だよね。

そう言うと思った。


「なんで?」


「ルイはいい女だ。変なことはしねーよ。」


その自信はどこからくるのだろうか。

証拠などなにも持っていないくせに。

戦闘の感覚を信じすぎと言いたいけどこの男の場合その感覚は圧倒的に正しい。


「ははん。お兄ちゃんルイセントさんに惚れてるの?」


イタズラ心が芽生えてしまった。

戦いにしか興味のない兄が恋愛。

想像できないがそうだったら面白い。

からかいがいがある。


「ああ。おれはルイのこと好きだぜ。」


「っつつーーー!」


まさかの肯定。

からかおうと思っていたのに調子が狂う。


「へ、へぇー。告るの?もしかしてルイセントさんがお姉ちゃんになる、なんてことも、、、、。」


うんうん。

ルイセントさんなら悪くない。

お姉ちゃんかぁ。

うん、いいわね。


「バーカ。告らねぇよ。」


「えっ!?なんでよ!あっ、もしかしてフラれるのが怖いとか?炎竜王様もたいしたことないのね。」


わが兄ながら情けない、、、、。

私なんてちゃーんと告白してちゃーんとOKもらったのに。

いつも態度大きいくせに肝心な時にチキるんだから。


「ティナだって知ってんだろ?俺たちに呪いがある限り幸せにはなれないしさせてやれない。」


「そんなの知らないわよ!呪いなんて!私は幸せになるの。呪いがあろうとなかろうと関係ないわ。いつ死ぬかなんて皆わからない。たまたま私は死ぬ時が決まっているだけ。だから限られた時を全力で生きて幸せだったって私は死にたい!お兄ちゃんだっていつも呪いに抗ってやるって言ってたじゃない!」


物心ついたときには母は死んでいた。

どこかの地に守りを授けたと後で兄から聞いた。

だがその地は人々に見放された。

私がその土地に足を踏み入れた時には人々はより便利な暮らしを求め去っていった後だった。

そこに残っていたのは荒れ果てた村と苔や蔦で覆われた朽ちかけの母の銅像だけだった。


母は無駄死にした。


「大丈夫だ、ティナ。お前は幸せにはなれるさ。たとえ死ぬ未来が決まってたとしてもそれまで全力で生きろ。俺が守ってやる。」


兄の言葉を信じたいと思った。

だからその時に兄と2人で誓った。

呪いがあろうとなかろうと幸せになろう。

全力で今を生きよう、と。


その兄から諦めの言葉なんて聞きたくなかった。

兄の弱気な発言なんて聞きたくない。

そんな小さな背中なんて見たくない。


「俺は次に全力で戦ったからおそらく戻れなくなる。」


信じられないと泣きながら責めるルノティーナに一切動揺することなくエルランドが呟いた。

ルノティーナが言葉を失う番だった。


「うそ、でしょ?」


「本当だ。実際、昨日はルイがいなければ戻れなかった。呪いに抗うとか言っておきながら無様なもんだな。」


そんなことない。

呪いの力だろうとそこまでの力を得たヴィルムは初代以外にいない。

そう言おうとしたがうまく言葉が出てこない。


「いや、、、、、。」


違う、そうじゃない。

言いたい言葉はそんなことじゃない。


「泣くなよ、わかってたことだろ?どんなに頑張ろうと血の呪いには抗えないってことだ。」


「だからさ、俺ルイに付いていこうと思う。あいつが何を企んでんのか知らねぇけどおれにも出きることがあるはずだ。あと一戦しかできねぇならあいつの為に戦いてぇ。そんで出来ることならあいつに殺されたい。」


「お兄ちゃんはそれでいいの?幸せだったの?」


「俺は好きな奴の隣でずっと戦ってきたんだぜ?幸せだったに決まってんだろ。限られた命を全力で生きたんだ、後悔はない。まぁ一個あるとすればリューとお前の子供が見たかったな。やってたとしてもさすがにすぐは生まれないしな。」


いきなり雰囲気を壊すセクハラ発言。

耐性のないルノティーナは顔を赤らめ口をパクパクさせるしかない。



「ティナ、幸せになれよ。」


「うん!」


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