第215話 魔王を救え
*
「貴様、吸血鬼か?」
レヴァンさんの登場に眉をひそめたのは面識のないルイセントだった。
馴染みすぎて忘れてたけど吸血鬼って魔王クドラクの配下って認識になるんだよな。
魔王の配下が急に現れたそりゃ警戒するよな。
しかもレヴァンさんの場合主はすでに死んでるんだもん。
「お初にお目にかかります、賢者様。私は確かに吸血鬼ですがここにいるリュースティア様に忠誠を捧げた身。敵意は控えていただきたい。」
よかった、やっぱりレヴァンさんは大人だ。
若干、賢者の部分に嘲笑の響きがあった気がするが。
「古き時代を生きた魔王の眷属が人間に忠誠をささげた?」
「ええ、それが主の願いでもあるので。私に疑惑の目を向けるのは構いませんがそれでは話が進みませんよ?」
ルイセントの疑惑はまったく晴れてはいないがここはレヴァンさんの言う通りだろう。
さっさと話しを進めていただきたい。
「悪いな、俺からもあとでちゃんと言っておくからさ、」
「気にするな、疑われるのには慣れている。リュースティア様のせいではない。」
*
「アルフリックの目的地は南の大陸って言ってたけどそれはなんで?」
「勇者である奴の目的は古き時代を生きた魔王を全滅させることだ。南の大陸には厄災の巨人、スルトがいるのだ。奴はすでに不死の王、クドラクと海の暴食、レイン・クロインをその手にかけている。」
ふむ、不死の王って言うのはヴァンのことだろ。
つまりあいつヴァンを殺した後にもう一人魔王を殺してたのか。
てかあいつ自身も古き時代を生きた魔王の一人だろ?
仲間を殺してるのか?
「奴らに仲間意識などない。弱き者は消され強き者だけが残る。」
リュースティアの心を読んだのかレヴァンが口をはさむ。
「そもそもなんで奴は古き時代を生きた魔王を倒して回ってるんだ?」
「邪魔者を排除するため、他の魔王を従順にさせるため、人間から崇拝を集めるため、暇つぶし、陽動。奴の事だ、なんでもありだろう。」
ふむ、そこは賢者でもわからないのか。
レヴァンさんも口をはさんでこないところを見ると同じく目的は不明、ってことなんだろうな。
目的もなくヴァンが殺されたとか俺も納得できないしこれは本人に会った時に直接きくとしよう。
「目的はいったん保留にしとくとしてさ、その巨人はどんなやつなんだ?」
討伐した方がいい奴ならアルフリックが倒すのを止める気はないけど仮にいいやつだったら無視するのは目覚めが悪い。
ヴァンのことがあったからなおさら魔王だからと言って悪いやつらだと決めつけるのは早計だ。
そもそも悪い奴とか良い奴なんて主観で変わるしな。
ヴァンにはヴァンの主張と正義があったのがいい例だ。
「書物として残っているんのは昔から存在していたこと、かつて一国を滅ぼしたことくらいだな。スルトは南の大陸にある森で他の巨人とともに暮らしている。ここ数百年は森からはおろかその集落からも一歩も出ていないらしい。」
現状無害ってことか?
けど一国を滅ぼしてるわけだしなぁ。
けどずっと昔の出来事っぽいし時効か?
結局どんな奴なんだ。
「スルトはいい子なの!」
「シルフ?」
思わぬところから声が上がった。
というかシルフいたのか。
「スルトは優しいの。森とそこに生きる子たちをとっても大切にしてるの。だからいい子なの!」
「えっと、シルフはそのスルトに会ったことあるのか?」
「ずっと昔?わかんないけどわかるの!スルトはいい子なの!」
わかんないけどわかるってこっちはまったくわからん。
けどこんなんでも四大精霊の一人だしなぁ。
それに森に棲んでる者の悪意をシルフが感じ取れないはずはない。
まっ、理由はなんでもいいか。
俺がシルフを信じるなんてあたりまえのことに理由なんていらないよな。
それにそいつがどんな奴かは実際に会ってから判断しても遅くはない。
皆の視線が最終的な判断はリュースティアに任せると言っている。
「厄災の巨人、スルトを助ける。俺たちも南の大陸に向かおう。」
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