第206話 一区切り

「それより貴様はこれからどうするつもりだ?」


ルイセントはクックを見ない、という選択をしたらしい。

頑なに明後日の方角を見ている。


「できれば何もなかったように生活したいけどさすがにそれは無理だろうしなぁ。・・・・・・・・そろそろ決着を付けないとだし。」


「すまない、最後に何を言ったのか聞き取れなかった。もう一度言ってくれ。」


おっと。

最後の言葉は口に出したつもりはなかったのに出てたみたいだ。

だけどこれは俺たちの問題だからルイセントを巻き込むつもりはない。


「いや、なんでもない。とりあえず俺はアルフリックに会いに行く。情報は十分集まったしな。」


「死ぬ気か?」


ルイセントがお前馬鹿か?みたいな感じで聞いてきた。

アルフリックの強さを知っているルイセントからすればそういう反応になるのもわかるけどさ、もう少し優しくしてほしかったな。

そんなかわいそうな奴を見るような目で見ないでください。


「いくら俺でも自殺願望はないぞ?あいつがどれほど化け物じみてるかなんて嫌と言うほど知ってる。けど俺だってもうあの時の俺じゃない。」


そうだ。

もうあの時の俺じゃない。

ルナと契約したからには前回みたいに何もできずに終わる、ということにはならないはず。

それに光魔法や影魔法、風神の進化、創造スキルの開花。

新たな力は手に入れた。

だが前回の時と大きく違うもの。


それは覚悟だ。


俺は、アルフリックを殺す救う




『リュー!早く帰ってこないとごはんがないの。』


シルフからの怒りの念話が入る。

ったく、シルフには魔王の襲来を伝えたんだけどな。

まずは安否の確認しよ。

ごはんの方が大事ってちょっと泣けるよ?

まぁ契約している以上ほんとにやばかったらわかるんだろうけどさ。

ある意味信頼の裏返しとも言えなくもないけどさ。

やっぱ悲しいんだわ。


「うちの子たちがお腹空かせてるみたいだからとりあえず家に帰る。ルイセントも来るか?夕飯と寝床くらいなら提供するけど。」


簡単なものになるだろうけどそれでもまずくはないはずだ。

それにルイセントも中身はばばぁだが見た目は妙齢の女性。

それに加えてエルフの美人だ。

性格きついけど。

こんなところで野宿させるわけにはいかないよね。


「貴様、なにか失礼な事を考えなかったか?」


ギロリ、とにらまれた。

あれ?

ルイセントって読心系のスキルとか魔眼もってたっけ?


「はぁ、スキルなどに頼らなくても貴様が考えていそうなことくらいはわかる。」


ほら、また。

女の勘っていうのかな、それずるいと思うんだ。


「で、どうすんだ?ルイセントにはまだ聞きたいこともあるし家に来てくれるとありがたいんだけど。」


「すまないが遠慮させてもらう。エルランドも頭が冷えている頃だろうし、あいつの様子を見に行く。あんな奴でも仲間だ。放ってはおけないからな。」


へぇ、意外と仲間想いなとこあるんだな。

これはもはやツンデレというやつでは?

ルイセントのデレか。

うん、見てみたいな。


「そっか、じゃあこれエルと一緒に食べてくれ。」


ストレージからサンドイッチと蜂蜜酒を出しルイセントに渡す。

本当は肉やスープも渡してあげたいがあいにく作り置きを切らしてしまっている。

蜂蜜酒は何となくだ。

もっと強い方がいいのかもしれないが酔って暴れられても困るからな。


「すまない、ありがたくいただく。では食事の礼も兼ねて明日、貴様の家に顔を出そう。こっちも聞きたいことは山ほどある。」


そうして明日また会う約束をし、ルイセントはいまだ戦闘の後が残る森の中を歩いていった。

エルの様子を見に行くと言っていたが場所の見当はついているのだろうか?

まぁ彼女なりのやり方があるだろうし放っておいてもいいか。


「よし、俺も帰るか。」


「あのー、すみません。リュースティア様。私は、そのどうすればよろしいでしょうか?」


リュースティアが帰ろうとすると申し訳なさそうにクックが声を発する。

聞こえる声はもちろんリュースティアのお尻の下からである。

おずおずと声をかけたのは先ほどリュースティアにしゃべるなと言われたからだろう。

不憫だ。


「ああ、いたのか。そうだな、お前は空の警戒な。その羽が自慢なんだろ?」


「はっ、一睡もすることなく完璧な警戒をさせていただきます。」


そう言ってクックはご自慢の、あちこち焼け跡のついた羽で空へと舞い上がっていった。

リュースティアのマップや索敵、感知スキルがあれば急襲されることなど100%ないということも知らずに。。。。

一睡もせずに無駄な警戒に当たるクック。


不憫だ。





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