第205話 焼き鳥

「ほう、人間の分際で我が領域に足を踏み入れるか。」


いや、ここ空中だから。

足とか以前に全身で踏み込んでるんだわ。


「勘違いもほどほどにな。取りの領域は鳥かごだろ?大人しくかごの中に入っとけ。」


こいつには悪いが今の俺は優しくできない。

だから手加減もなしだ。

せいぜい死なないように祈ってろ。


「人間風情がそこまで大口をたたくんださぞかし楽しませてくれるんだろうな。」


口調は冷静を気取っているが顔が真っ赤だ。

挑発には乗らないぞって無理してるの丸見え。


「はぁ、いいからさっさと来いよ。泣くまでボコってやる。」




「ひっ。も、もう許してください!」



先ほどから空からの悲鳴が途切れることがない。

大きな戦闘音はすぐに聞こえなくなったので決着自体は早々についたのだろう。

だがリュースティアは降りてこなかった。

その代わりに悲鳴と悪魔のような笑い声が降ってくる。

悲鳴はおそらくクックの。

笑い声はリュースティアのものだった。


上で何がおきているのだろうか?

あの悲鳴を考えると、とてもじゃないが想像したくないルイセントなのであった。


あいつ、もしかして真の魔王か?

アルフリックは奴を倒そうとしているだけ、なんてことさすがにない、か。


ない、だろうな?



地上ではルイセントが自分の判断を疑っているなどとは知らないリュースティアはずいぶんお楽しみのようだった。


「んー?聞こえないんだけど?君さ、俺と俺の仲間をどうするって言ったんだっけ?ほら、もう一回言ってみなよ。」


「ぐぼ。ぐっ、はぁはぁ。ずびばぜんでじだ。あなたとそのお仲間の首をいただくと言いました。おねがいしまうす。もう許してください。」


備え付けられた焼き網の上で哀れな声を上げているのは誰でもない、魔王クックである。

彼は文字通りリュースティアに秒殺された。

だが勝手にイライラのはけ口にされたクックは今に至るまでリュースティアの遊びに付き合わされる羽目になったのだった。

憐れとしか言いようがない。

敵であるがゆえに一切の容赦がない。

今も何度目かの焼き鳥作成中だ。


「おいおい、これは戦争だろ?負けた側に意見を言う資格あると思ってんの?とは言ってもクックから聞き出せそうな情報はもうないしなぁ。」


「お願いします!リュースティア様にすべてをささげますから、どうかご慈悲を。」


すっかりリュースティアに従僕したクック。

その姿にはすでに魔王の威厳などどこにもなかった。


「そうだなぁ。あと10セットやったら終わりにしてやるよ。」


リュースティアは鬼だった。





「ごめん、待たせたか?」


鳥人族の背に乗ってリュースティアが空から戻ってきた。

すでに戦闘が始まってから2時間はたっている。

戦闘は秒で終了しているのでつまりは2時間ほどクックの拷問をしていた計算になる。

憐れ、、、。


「いや、それはいい。言いたいこともたくさんあるがそれもここは抑えてやる。だが一つだけ言わせてもらう。」


ルイセントは木で編んだような椅子に座りながら優雅に読書をしていた。

それを見た瞬間、リュースティアは心配させたな、という言葉を飲み込んだ。

こいつ、一ミリたりとも心配してねぇ。


「ん、なんかあったのか?まぁこんだけ騒いだんだし衛兵でも来た?」


「いや、それは私が領主あてに伝言を送ったから問題ない。」


「さすが、仕事が早いな。でもじゃあなに?」


ラウスさんの対応をどうしようとか思っていたから助かった。

魔王の襲来とかどう説明したらいいかわかんないし。


「ああ、その、なんだ。えっと。」


なんだ?

ずいぶんと歯切れが悪いな。


「貴様が座っているやつの事なんだが。」


ああ、そっか。

ルイセントは地上からしかこいつの事見てないからわかんないか。


「こいつか。元魔王クックだよ。今は俺の奴隷いすだけどな。こいつも魔王やってるよりもよっぽど喜んでるぞ。そうだよな、クック?」


「ひぃ、はい!もちろんです。私はリュースティア様の従順な下僕、椅子にございまず。」


この怯え方、尋常じゃない。

ルイセントの表情が引きつるのも仕方ないだろう。

そしてルイセントのリュースティアを見る目が若干変わったのも仕方ない。



「うるさい、椅子がしゃべんな。」



鬼か!






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