第203話 空からの刺客
*
「それでそのヴィルムは父親代りでもある竜を殺したのか?」
ルイセントから聞いたヴィルムは想像以上だった。
まさか二人の名にそんな秘密があったなんて。
竜を喰らい得た力。
呪いとも言っていたが。
つまり竜の加護があるから二人は人外の力を有している、ということか。
「ああ。酒を持ち寄り宴と称し酔いが回ったところをバジリスクの毒を塗った聖剣で口内をブスリ。そして親の肉を喰らった。」
ルイセントも思うことがあるのだろう。
悲痛そのもの、という顔をしている。
「肉を食ったのはヴィルムだけなのか?他の兵士にも食わせた方が多くの人が力を得られるんじゃないのか?」
「もちろん当時の王も同じことを考えた。だが竜の肉を喰らい生き残った者はヴィルムだけだったんだ。他の者は例外なく血反吐を吐き死んでいった。もちろん加護もちも同じ結果に終わった。」
つまり力を得られたのはヴィルムだけだったのか。
そりゃ英雄って呼ばれるわな。
「ヴィルムの成り立ちはわかった。エルたちがなんでそんなに強いのかも。けどそれの何がまずいんだ?それだけなら初代はともかく何百年も後に生まれたエルたちは関係なくないか?」
確かに自分の親を殺した罪悪感は想像を絶するものだっただろう。
だがその罪悪感を何世代も後のエルたちが抱えているとは思えない。
「言っただろう?その血は呪いだと。」
「呪い?」
「そうだ、ヴィルムの男は竜牙のごとき力、女は竜鱗のごとき守りの力を行使することができた。」
「竜牙の力は諸刃の剣だ。自らの精神を食わすことで強大な力を得ることができる。だが、力を使えば使うほど自我はなくなりただの狂戦士へとなり下がる。あとは命尽きるまで戦い狂うだけだ。さっきの戦いでエルランドの自制が効かなくなったのも呪いの影響が強くなっているからだろうな。まだしばらくは問題ないだろうが強敵と見舞えた時はどうなるのか、私にも予測はできん。」
「呪いは竜鱗の守りも同じようなものだ。ヴィルムの女に生まれたものは自らの命と引き換えにその土地に数百年続く守りを授けることができる。もっと悪いことを言えばその力は25歳を過ぎると失われる。」
「そんな、、、、。けどそれって言いかえれば力を使わなければいいってことだよな?」
そんなのあんまりだ。
デメリットがでかすぎる。
ルイセントが”呪い”という意味がよく分かったよ。
「それは無理なんだ。ヴィルムは闘いの中でしか生きられない。」
「なんでだよ。自分の命が惜しくないのか?」
「さぁな。ただヴィルムがいうには血の疼きを抑えられないらしい。女の方はそれほどでもないらしいが。」
「ならルノティーナは大丈夫ってことか?」
「王国が神代のアーティファクトよりも強力な道具を放置すると思うか?ヴィルムの女は25歳までに子供を産み、決められた土地に守りを残すことが決められている。ヴィルムの女は25歳までしか生きられない。」
「じゃああいつは血を絶やさないために好きでもない奴の子を産んで、死に場所と死ぬ時まで決められているって言うのか?たった25年で何もかも終わりかよ。」
「ああ、それ以上の詳しいことは知らないがおそらく成人をすぎてた時点で本人には伝えられているだろう。ヴィルムの呪いというのはそういうものだ。」
あのくそバカ!
なんでそんな大事なことを言わねんだよ。
いつもいつもくだらないことばっか言いやがって。
もっと言わなきゃいけないことあったじゃねぇか。
こんな大事なこと秘密にしてみんなになにも言わずに死ぬ気だったのか?
くそ。
ふざけんな!
「リュースティア、感傷に浸っているところ悪いが客人のお出ましだ。」
いつ、どんな時でも邪魔者は現れる。
なんたって空気の読めない奴らなのだから。
「見つけたぞよ!我が主の敵ぞ。」
空から下手な言葉を話す声が聞こえた。
話す、というよりは叫んでいるに近いがそれでもかろうじて聞こえる程度だ。
つまり相当な高さにいる敵からのあいさつということだろう。
リュースティアとルイセントは首が痛くなりそうなほど上を見上げる。
居た。
遥か上空に豆粒のような人影が見える。
手足は人間、か?
鱗のようなものとかぎ爪が見える。
顔は嘴があるな。
鳥人か?
主がだれかなんて聞くまでもなさそうだ。
「聞こえているぞよ⁉我が主の命により貴様と貴様の仲間の首をもらい受けるぞよ。大人しくしていれば女子供からその首を刈ってやるぞよ。」
「あ?」
ただでさえリュースティアは機嫌が悪い。
そこに狙いすましたかのような発言。
まさに竜の尾を踏んだのだ。
眠れる竜が、起きた。
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