第200話 ヴィルム①

それは神代以降にもっとも栄えた時代の一つ。

神代の頃のように神が顕現することはなく、地上を我が物顔で飛び交っていた精霊たちの数も目に見えて減っていた。

そんな精霊たちの数と反比例するように神代の魔法は徐々に失われつつあった。

だがその時代には神に、そして神代の魔法にとって代わる存在モノ》がいた。


竜。


それらは現在の翼の生えた蜥蜴のようなドラゴンなどではなく、中国の伝承に出てくるような、蛇のように長い胴体を持つ翼のない竜たちだった。

彼らは意思と言葉を持ち、その体に似合うだけの崇高な精神を持ち、その時代には下等生物として見られていた人間族とすらも交流を深く築いていた。


人間族は竜族に娯楽と物品を。

竜族は人間族に加護を与えた。


最強種族である竜からの加護は人間族に大いなる力を与えた。

それは下等生物とされていた人間族を押し上げるには十分すぎるものだった。

そしてそれが人間族の転機にもなる。

力を得た人間族は淘汰されることに怒りを覚えた。

支配される側ではなく、支配する側になりたい、そういった欲望の種が人々の心に芽生え、着実に実をつけていた。

与えられた力であるにも関わらずそれを自らの力だと誤認し、自惚れた。

そしてそのころには竜たちとの交流も以前ほど頻繁ではなくなっており、昔を知る老人や一部の村の者のみが竜族を崇めているだけになっていた。

だが竜たちにとって人間族など散りゆく木の葉の一葉。

人間族のことなど気にも留めていなかった。



人間族は手始めに弱い種族の排除を行った。

そして人間族の領土の拡大。

次第に人間族の領土は大きく、国を築くまでに至った。

それが現代に至るまで、なんども王朝が変わりはしたが今のメウ王国そのものである。



力に溺れ、強欲の化身となり果てた人間族が竜から受けた加護や恩恵すらも忘れてしまうにはさほど時間はかからなかった。




時が流れ、いつしか竜と人との交流はまったくなくなった。

だがそれでも竜たちの姿はまだ地上にある。

時折、思い出したかのように人々の生活を覗きに人里へ出向いていたのだ。

竜たちにとってはほんの気まぐれの暇つぶしでしかない。

だが人にとっては脅威以外のなにものでもなかった。


かつては友として親しんだ過去を覚えている者はいない。


これは竜たちが神域へと身をひそめることになった出来事の一端である。

今この世界に竜族はいない。

いるのは飛竜や土竜、偽竜と呼ばれる西洋版のドラゴンのような種族のみ。

いわゆる東洋版ドラゴンを見ることはない。



人々は竜たちの脅威にあらがうべく、竜退治に赴くことを決意した。

その蛮行に選ばれたのが他でもない”エドラード・ヴィルム”

言うまでもなく、エルランドたちの祖先。

ヴィルムの始祖と言ってもいいかもしれない。


選ばれた時のエドラードはまだ若い方ではあったが誰よりも剣の才能に恵まれ、魔法の才はそれほどでもなかったが莫大な魔力を有していた。

何よりもかつて竜たちから授かった加護を色濃く受け継いでいたのだ。


だがそれ程才に恵まれたものであろうと竜たちと戦うにはあまりにも貧弱と言わざるを得ない。

いくら力を得たとは言え、人間の力では竜の心臓に剣を突き立てることは叶わない。

魔法だろうと同じ。

人の魔法では竜の鱗一枚、剥ぐことはできないだろう。


そして人々は考えた。

どうすれば非力である人間が竜を凌駕することができるのか、と。



答えはすぐに出た。




竜の力をもらい受ければ喰らえばいい。











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