第196話 賢者の憂い
*
「どうした?そんなに話しにくいなら別に無理して話さなくていいんだけど。すげぇ 馴れ馴れしくしてるけど普通に考えて今日会ったばかりの人間に深刻な話なんてするもんじゃないよな。」
エルとの戦闘のせいですっかり忘れてたけど初対面なんだよな、俺たち。
その初対面の人間に何を話そうとしてる?
「確かに私たちは今日会ったばかりだったな。だが不思議と貴様とは今日会ったばかりな気がしないものでな。」
うん、それはわかる。
なんか知らんけど俺も初めて会った気がしないんだよね。
まぁ100%勘違いなんだけどさ。
だって俺、この世界に来てまだ1年もたってない。
「まぁそれは置いといてさ、話す気ないならお開きにするぞ。今は離職中だが俺だって暇じゃないんだよ。」
はい、嘘です。
やりたいことはそれなりにあるけどやらないといけないタスクはありません。
けどこうでも言わないとだらだら話すだけになりそうなんだよね。
俺としては話そうが話さまいがどっちでもいいんだけど早くこの状況を終わらせたい。
「すまない。きちんと話そう。貴様にも関係のある話しだ。すまないがもう少しだけ付き合ってくれ。」
おっ、どうやら話す覚悟が決まったらしい。
果たしてどんな凶報が伝えられることか。
*
「単刀直入に聞く。貴様はアルフリックの正体を知っているか?」
「、、、、、。」
うぉーっと。
いきなり核心ですか。
これは真実を話すべきか?
それともごまかすべきか?
判断に迷うな。
よし、ここはもう少し話させて様子をみよう。
さぁ、もう一仕事だそ、無表情スキル。
「表情一つ変えないか。では言い方を変えよう。貴様はアルフリックの正体を知っているな?そしてやつを殺そうとしている、違うか?」
「、、、、、。」
やばいなぁ。
これ核心突きまくじゃん。
絶対なにかしらの根拠のある発言だよな。
無言で切り抜けるの無理ゲーな気がするんだけど。
「私は貴様が何者で何をするつもりなのかは知らない。だから安心しろ、というわけではないが。私はアルフリックが古の魔王の1人、全能者ハリストスであることを知っている。」
「どこでそれを、、、?」
だめだ。
もう我慢できない。
これは知らぬ存ぜぬを通すよりもある程度情報を開示し、ルイセントの持つ情報を聞き出した方がよさそうだ。
なにせこの世界でアルが魔王だと知っている者は俺だけなはず。
後は俺が話をしたリズたちだけなはずだ。
「見ていたからな。奴が、魔王として一つの時代を終わらせるのをな。」
見ていた?
ああ、そうか。
過去の賢者としてその場面を見ていたということか。
だが彼女の苦々し気な表情を見る限りではただ見ていたというだけではなさそうだ。
もしかして敵対してた、とかかな?
「そうだ。その時の私は奴によって殺された。私は魔王を鎮めるためのパーティメンバに組み込まれていたんだ。その時のメンバーは全滅、その時代もアルフリックによって滅ぼされた。」
「自分を殺した相手、、、。でもなんで?過去にアルに殺された記憶があるのに何で勇者パーティに入ったんだ?それよりもアルはルイセントの事を覚えていなかったのか?」
まさか殺されていたとは。
そんなものつらいに決まってる。
死んで転生を繰り返すってことは何度も自身の死を経験してるってことだ。
当然その死は老衰だけではなかったはずだ。
「言っただろう?転生ごとに種族も性別も、性格も違うと。アルフリックは賢者の秘密を知らない。だから私がかつて殺した賢者ということには露ほども気づいていない。」
ホントに知らないのか?
あいつのことだ、知っている上で放置してそうだ。
「ふっ、あいつは自分が殺した相手などいちいち覚えていないさ。それこそ何千年も前の話しなんてな。」
どこか自嘲気味に吐き捨てるルイセント。
アルフリックのことを今でも恨んでいるのだろうか?
「別に恨んではいない。だが今世ではあいつは勇者を名乗り、魔王を殲滅しまわっている。これが私には不吉な前兆意外に考えられない。」
「それは考えすぎなんじゃないのか?あいつだって改心したかもだろ?」
この言い分は苦しいか?
けど
これは俺たちの問題だ。
「そうだといいんだがな。」
なにかあるのだろうか?
嫌な予感しかしない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます