第189話 賢者の真意
*
「もう逃げ道はないぜ!これで終わりだ!【燃えろ 血より朱く 爆ぜろ 炎 炎爆】」
それさ、敵相手に言うセリフでしょ。
俺味方、というか弟子。
もういいけどさ。
というか今まで魔法名だけ言ってたくせにここに来て短文詠唱?
完全に決めにかかってるじゃん。
とか思った次の瞬間には今までで一番大きな爆音と炎が上がっていた。
わずか数秒がとても長く感じる。
まるでスローモーション。
あーあ。
もう目の前まで迫っちゃってるよ。
逃げ道もないしさ、詰んだか?
「ってんなわけねーだろ!【すべてを深淵と返せ
こっちだってただ炎から逃げてたわけじゃない。
魔力を練りつつこの炎の包囲幕を突破する機会を狙ってたんだよ。
しかもこの魔法なら被害を最小限に抑えることができる。
簡単に言えば影で創った落とし穴。
詠唱で深淵とか言ってるけど実際はどこまで深いのかなんてわからない。
そもそも影の中で深さを計れという方が無理がある。
でもレヴァンさんが言うには影穴の大きさは魔力に比例するらしい。
だから逆に俺は今回みたいに詠唱をして調節しないと穴が大きくなりすぎてすべてを飲み込んでしまう。
というのは影魔法に手こずっていた最初のほうだけ。
今は無詠唱でも調節は可能だ。
じゃあなんで詠唱したかって?
エルにつられたんだよ。
森は一瞬で炎の渦に飲まれ、その後、一瞬にしてその炎が影に飲まれた。
辺りにはまだ煙がくすぶっているが燃えてはいない。
炎は完全に影の中へと姿を消していた。
「ふぅ、さすがにこれで終わるだろ。」
エルの最大で最後の切り札ともいえるべき魔法を相殺した。
それにいくらエルでもあの規模の炎を飲み込む影から逃れられるはずはない。
自身の魔法への自信。
そこに油断が生まれる。
「甘ぇよ!!魔法を相殺したくらいで気を緩めんな。」
ありえないくらい近くから聞こえた声に反応すると体から煙を上げているエルが斬りかかってくるところだった。
まずい。
魔力を一気に使いすぎたせいで体の反応が遅い。
避けられない。
死ぬ!
リュースティアが自らの死を覚悟した時、どこからか澄んだ声が聞こえた。
師匠との試合で死を覚悟するのはどうかと思うが。
今はそんなことどうでもいい。
「【止まれ】」
「っつ!!」
その一言だけ。
たった一言。
だがその一言は物理的な効力を持ってエルランドに直撃した。
今にもリュースティアを真っ二つにする、というかっこうで止まっている。
いや、エルだけが時間の静止にでもあったかのように停止させられている。
「エル?」
「ちっ。おい、ルイ!邪魔すんのは話が違うんじゃねぇのか。」
やっぱりそうか。
さっきの声はルイセントのものだ。
つまりリュースティアの命の恩人、ということになる。
まぁ、この状況を作り出した張本人でもあるだけに素直に感謝できないけど。
「すまないな。だがこのままではお前はこいつを殺すまで
「俺を殺すまでって、、、。エルランドさん?」
ちら。
プイ。
おい。
視線を逸らすな。
えっ?
マジで?
ホントに殺し合いしてるつもりだったん?
「まったく、お前は熱くなりすぎだ。少し頭を冷やしてこい。私はこいつに話がある。」
「わりぃ。」
それだけ言うとエルは森の奥へと姿を消した。
ルイセントに突っかからなかったところを見ると図星らしい。
熱くなりすぎて殺し合いになるとか勘弁してくれ。
戦闘狂の意味を改めよう。
「で、だ。リュースティア。お前に話しがある。」
邪魔者、もといエルランドが姿を消したあと、ルイセントがリュースティアの方を向いた。
森の中の彼女はやはり見惚れるほどに美しい。
例えその森が戦闘の後の荒れ地のような惨状だったとしてもだ。
だがそれに騙されるわけにはいかない。
改まって何か話があるということは100%の確率で厄介事だ。
つまり答えは決まっている。
「お断りします!じゃっ、そう言うことで!」
速攻で断り、この場から退散する。
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