第187話 男と男の戦い

「行くぞ!」


その掛け声とともに戦闘の火ぶたは切って落とされた。

先手を打ったのはエルランド。

上段に構えた剣で勢いをつけて斬りこんできた。

今回は前回のような木剣ではなく真剣。

しかも最初っから魔法も使用しているらしい。


なんでわかるかって?

そりゃあ剣から溢れんばかりに炎が出てればそりゃ気が付くでしょ。


「っつ!どうした、最初っから飛ばすじゃんか。【吹き荒れろ 風神】」


リュースティアもこれになんなく対応する。

相手が魔法を使うなら俺だって使うまでだ。

もはや手足の一部と化した風神を解き放つ。

この前、進化したけど合言葉コマンドは変わらなかった。

ってことでなんとなく名前もそのままだ。

決していい名前が思いつかなかったからではない。

合言葉コマンドが変わらなかった以上、風神が望んでないと思ったのだ。


「話す余裕があんならもっと飛ばしてもよさそうだな!」


エルの攻撃速度が上がった。

以前エルの元で修行していた時にも見たことのない速度だ。

しかも攻撃は単調なモノではなく、フェイントまで織り交ぜてくる。

もはや視覚では追えない。

目で追ってから対処したのでは遅すぎるからだ。

知覚した際には真っ二つになっていること間違いない。


だがこっちだってだてに死戦を潜り抜けてきたわけではないのだ。

エルの人外なスピードの攻撃も強化した体と風神でいなしていく。

少しでもタイミングがずれれば確実に手傷を追う。

一瞬たりとも気が抜けない。

だからと言っていつまでも相手の攻撃をいなしてばかりではジリ貧だ。

何とかこの猛攻の隙をついて反撃しなければならない。


どちらかと言えば近接よりも魔法を主体とした中遠距離の方が得意なのだがこうまで接近されてしまうと距離をとることも一苦労だ。

いくら無詠唱で魔法を使えると言ってもここまでの速度で戦闘をしていては魔法を構築する余裕すらない。


「どうしたぁ⁉守ってるだけじゃ勝てねーぜ。」


ガキン!


ひと際大きな音を立てて両者の剣が火花を散らす。

どうやらここに来て初めての本格的な鍔迫り合いになったらしい。

そしてそれを合図にエルがリュースティアをあおる。


「そう焦んなって。まだ準備運動中なんだっよ!」



エルとの鍔迫り合いに負けないように体と風神に流す魔力を調節しながらリュースティアが答える。

これはエルに教えてもらったことだ。

ただ魔力を流せばいいってわけではない。

その都度、場所や量の調節が必要になってくる。

相手が強者ならなおさらその調節が重要になってくる。


「ほう?やるじゃねーか。俺にも引けを取らないとは腕を上げたな。」


このまま鍔迫り合いをしていても埒が明かないと判断したのかエルランドがリュースティアから初めて距離をとった。

つまり剣による近接は合格ということなのだろうか?


「おほめにあずかり光栄だな。だが油断してていいのか?」


距離ができた。

つまり戦闘が始まってついにリュースティアがまともに魔法を使える機会を得たというわけだ。


「【影縛り】・【発光フラッシュ】」


覚えたての影魔法でチャレンジ。

闇は光が強くなると濃くなるからな。

それを利用させてもらう。

影魔法と光魔法の同時発動。

適性のない人間にはまず不可能な芸当。

それをなんなくやってのける。

しかも風神にまとわせている風魔法は常時発動したまま。



「ほう?風魔法を使うとは聞いていたが影魔法に光魔法まで使えるとは。面白いやつが現れたものだ。」



2人から少し離れたところで戦闘を見守っていたルイセントがそんなことを呟いていることなど少しも知らず二人の戦いは後半戦へと続くのであった。

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