第186話 賢者の尻拭い

「ということでリュースティア、頼んだぞ。」


「はい、、、、っていうかバカ!」


あっぶねー。

なにこの人当たり前のことのように言っちゃってんの?

つい普通に返事しそうになっちゃったじゃんか。


「どうした、やらんのか?」


って、ちょっと待て。

なんでやらない俺が悪いみたいな空気作ってるわけ?

それに残念がってんじゃねぇ。

俺はあんたらみたいな戦闘狂じゃないんだよ。


「やるか!なんで俺があんたの後始末しないといけないんだよ。エルからもなんか言ってくれ。お前の喧嘩相手は俺じゃなくてルイセントだろ?」


全く期待はしていないが。

それでも何もないよりはましだろう。

それにきっと、きっと。

というかそうであってほしいと願うがエルは俺よりもルイセントと戦いたいはずだ。

、、、、そうだよね?


「ん?いやー俺としては戦うやれるならどっちでもいいぜ。」


はいでましたー。

そういう戦闘狂の発言は今求めてはおりません。

まぁエルにちょっとでも期待した俺もおれなんだけどさ。

これはもしかしなくてもかなりまずい状況だよなぁ。

ルノティーナが帰ってくるまで持ちそうにもないし。

なんであいつらがいないのに面倒なことになってんだろう。

はぁ。

もしかして本当の疫病神って俺か?


「おい、賢者。あんた賢者じゃなくて愚者だろ。なにわけわからんこと提案してる?自分の後始末くらい自分でしてくれ。」


「お前こそ何を言っている?師匠と弟子が実力を確かめ合うことはなにも変なことではないだろう。私はそのお膳立てをしたまでだ。」


んー?

誰がそんなことをたのみましたかね。

賢者様よ。


「なんだ、ルイにしては気が利くことするじゃねーか。俺もリューの実力は気になってなんだよ。なんか雰囲気が前と違ってるしな。」


おい、お前の怒りはどこにいった?

さっきまでルイセントに怒っていただろうが。

だから嫌なんだよ。

脳筋バカは。

思考回路が単純すぎてもう何も言えん。






「よーし。準備はいいか?」


結局あれからもいろいろと反論を試みたが依然として受け入れられず今に至る。

場所は東の森に移された。

だが後日、とか数時間後、とかいう配慮は全くされなかった。

唯一の配慮と言えば戦闘用の服に着替え、防具を用意する時間をくれたことくらいだ。

なんの配慮だ、と思わずブチ切れそうになった。


「よくないって言ったって数秒後には斬りかかってくんだろうが。」


もうどうとでもなれ。

やけくそになりながらそんなことを言う。

ちらりと横に視線を向けるとなぜか真剣なまなざしでリュースティアのことを見つめるルイセントの姿があった。

てっきりしてやった顔でニヤニヤしているものとばかり思っていたのでなんだか肩透かしを食らった気分だ。


こいつもしかしてなにか別の目的があるんじゃないか?

そんなことを思わないではいられないような視線だった。


だが気にしているような場合ではない。

今にも奄竜王が本気で斬りこんでくるのだ。

弟子だからと言って手を抜いてくれるような相手ではないことくらい俺が一番よく知っている。


「さぁて、俺の愛弟子がどんくらい強くなったか見てやろうじゃねぇか。死戦を超えた実力ってやつを見せてみろ。」


「さすが師匠様ってか?全部お見通しかよ。」


全く。

戦闘狂の勘ってやつか?

ったく、嫌になるな。

けど不思議と不快感はない。

なにも話さなくても伝わるってなんかいいな。


「まぁな。だから安心してすべてをぶつけてこい!」


しゃーない。

覚悟を決めるか。


「行くぞ!」








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