第183話 嵐、襲来
*
「は?」
チョットイミガワカラナイ。
「だからお兄ちゃんに言っちゃったんだってば。」
お兄ちゃんに言っちゃった?
お兄ちゃん?
お兄ちゃん?
お兄ちゃん、、、、。
ってことはエルランド、だよな?
「はぁぁー。ほんとにルノティーナって余計な事しかしないよな。」
「ちょ、何よ!余計な事って。だってリューにぃと婚約できたのがうれしかったんだもの。たった一人の家族であるお兄ちゃんに報告するの当然よ。」
たった一人ってことはエル以外に家族いないのか。
両親はどうしたんだろ、って聞かない方がいいな。
みんな何かしら事情があるんだろうし好奇心で詮索するようなことでもないしな。
それよりちょっと待て、言いたいことがある。
「いや、だから婚約はしてないから。どさくさに紛れて婚約を事実にすんな。」
「バレちゃったかー。やっぱり、だめ?」
なぜバレないと思った?
それにいくらルノティーナがスピネルの動作をまねて可愛く見せようとしても俺の心は絶対に揺らがない。
だからその不慣れ感出まくっているあざとい仕草はやめてくれ。
夢に出そうだ。
「ダメに決まってんだろ。つかその手紙はいつ出したんだよ?」
「手紙じゃないわよ?」
「え?だって伝えたって言ったろ。手紙以外にも連絡手段あるのか?」
「リューにぃだって知ってるじゃない。連絡用の
いや、それがあることは知ってるけどさ。
あれって偉い人たちの専用じゃなかったか?
*
「ふははー!おいばばぁ、見えてきたぞ。」
周辺にある木の中で一番高い木のてっぺん上り進路を確認していたエルランドは目的地を見つけ、下で昼食の用意をしていた同行者に声をかける。
地上数十メートルという距離を感じさせないほどにエルランドの声はよく聞こえた。
つまりうるさい、ということだ。
「わざわざ叫ばなくても聞こえる。エルフの耳が良い事を忘れたのか?」
鬱陶しそうに上を見上げたエルフがそんなことをぼやく。
本日の昼食は根菜の塩スープと硬パン。
長旅ではリュースティアのような
今回は温かい食事であるだけまだましだろう。
「細かい事なんていちい覚えてねーよ、っと。それよりまたそれか。肉食べてーな。」
地上数十メートルから地上に飛び降りこともなげに着地を決める。
そして火にかかっている鍋の中身を見て怪訝な表情をした。
「食事に埃が舞うだろう。もっと静かに降りてきたらどうだ?それに食事に文句があるなら貴様が用意すればいい。」
「へいへい。ありがたく精進料理をいただきますよ。」
エルランドのぞんざいないいかたに同伴者の片眉が吊り上がるが重いため息をつくだけで何も言わずに椀にスープを注ぐ。
この男の態度にいちいち腹を立てていてキリがない。
それは決して短くはない付き合いの中で学んできた。
ドワーフのような粗暴なこの男とは繊細であるエルフと相性がいいわけがないのだ。
何事もあきらめが大切である。
「それよりも前回この森を通った時にはもっと魔物と遭遇したが、今回はいやに少ないな。なにかあったのか?」
スープを飲みながらこの森に入ったときから感じていた違和感について聞いてみた。
本来ならここまでのんびりと昼食をとれるような森ではないはずだった。
もちろんこの2人は実力も相当なものなのでたといいつもと同じ状況であったとしても昼食をとるには困らないのだが。
以前きたときほど警戒を払っていない。
「あー、それな。妹のせいらしいんだわ。なんか金が必要だったらしくてここらの魔物を狩り尽くしたらしい。」
硬パンを口に放り込みながらこともなげにそんなことを言う。
エルランドの向かいに座り、それを聞いた同伴者は予想外の返答にスープを口に運ぶ手が止まる。
そしてゆっくりと椀を地面に置くと頭を抱えるのであった。
(はぁ、兄だけでなく妹も同じ穴の貉か。)
そんな妹とやらと婚約した相手にますます興味を抱く賢者様なのであった。
*
森へのピクニックから数日後。
特に何事もなく平穏な日々を過ごしていたリュースティアたち。
その間にエルランドに連絡を入れたがなぜかつながらない。
もう後はどうとでもなれと思っていた矢先。
屋敷をぶしつけにノックする音が聞こえた。
こんな礼儀の知らないようなノックをする奴には心あたりがない。
なにせ俺の知り合いはみんな品がいいからな。
とか誰にともなく自慢してみたりしなかったり。
ってことはほとんどの確率で厄介事か。
そんなことを思いつつ扉を開ける。
するとやはりそこには厄介事がいた。
否、厄災が君臨していた。
「俺、参上!!」
扉の外には上機嫌な自称師匠のエルランドが剣を正面に構え、リュースティアに今にも切りかかるところだった。
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