閑話 おわりのはじまり
※
「んじゃそろそろ俺たちは行くぜ?」
人々が多く行き交う町。
そこは活気が満ちており、町を歩く人々の顔には溢れんばかりの笑顔が張り付けてあった。
場の空気は希望に満ちている。
「もういくのかい?まだ宴の途中じゃないか。」
そしてそんな中に飛び交う2人の会話。
「俺がこういう場好きじゃないの知ってるだろ?」
そう言って纏っていた外套の襟を正すのは炎竜王と呼ばれる男、エルランド・ヴィルム。
彼はいつもの派手な格好ではなく旅姿をしていた。
それもかなりの長距離を意識した格好だった。
「まったく、相変わらず忙しないやつだ。それにわざわざ陸路を延々と進まなくても空路があると言うのに。」
そしてその隣にはあきれた様子のエルフが一人。
どうやら彼女も行動を共にするらしい。
「たっく、ばばぁはのんびりでいけねぇな。思い立ったが吉日!男はいき急いでなんぼだろ。」
「っつ!誰がばばぁだ。その減らず口を閉じておけ、さもなくば二度と開かぬようにしてやる。」
「おー怖い怖い。んな事だから何百年たっても嫁の貰い手一つねーんだよ。」
「き、キサマ!!私は誇り高き賢者、そしてエルフだ。愛だ恋だの世俗にまみれた欲望など持ち合わせてはいない。結婚などできないのではなくしないのだ。」
「まあまあ二人ともそのくらいにしておきなよ。道中も長いんだからさ、仲良くね?」
言い争いが武具を用いる戦いへと発展しそうなところを止めたのはこの宴の主賓。
勇者アルフリック。
今行われている宴も勇者による魔王討伐を祝したものだ。
討伐されたのは古き時代を生きた魔王。
それも5人いるうちの2人を倒した。
海の暴食、レイン・クロイン。
不死の王、クドラク。
この2人が勇者によって倒されたのである。
この出来事を群集が祝わないわけはない。
二人ともこの世の災厄とまで恐れられた魔王であり、倒すことはほぼ不可能とまで言われていた。
そしてこの二人の討伐を期に勇者は宣言した。
この世の全ての魔王を、悪を滅ぼすと。
圧倒的な力を前に人々は畏敬の心を持って勇者を受け入れた。
そして自分達は救われたのだと、安堵を胸に今を生きている。
だからこの街には希望が満ちているのだ。
「まあいつまでも出発地でダラダラしてるわけにはいかねえしな。じゃあな、アル。俺たちがいなくてもきちんと勇者やってろよ。」
「エルランドの言うとおりだな。貴様は目を離すとすぐにフラフラとどこかへ消えるからな。」
「うん、そうだねー。わかってるよ。それよりもさ、君たちどこいくの?」
本当にわかっているのかと疑いたくなるほどの軽い返事。
自身の立場が分かっているのか?
うわー、めっちゃ心配。
この時ばかりは二人の心情が一致していたことは間違いない。
「言ってなかったか?妹が婚約するらしくてな、それを祝いに行くんだ。」
「へぇ!ルノティーナがかい?相手は誰なんだろう。きっと腕が立つ人なんだろうね。僕も会いたいなぁ。」
「ああ、腕が立つことは間違いないぜ。なんたって俺の弟子だからな。今回こいつが同行するのもそいつに会いたいためなんだとよ。」
「君の弟子?それってずっと前に話してた子かい?信託が降りて辺境の地まで行ったっていう。」
「おう!俺の愛弟子、リュースティアだ。」
そして二人は王都を旅立っていった。
辺境の地、メーゾルにいる妹ルノティーナの婚約者に。
炎竜王の愛弟子に。
そして魔王アルフリックが殺したはずの男に。
因果で結ばれた運命の相手が。
確実に殺したと、死んだと思っていた相手が。
生きていた。
あの状況でどうやって生き延びたのかはわからないが胸の奥が熱い。
あの子が生きていて喜んでいるのか?
「あはっ、リュー君。君はやっぱり特別だ。早く会いたいね。。。。。早く、僕を殺して。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます