第178話 スパイ生誕

「あー、面白かったぁ。他にはないの?」


ようやくゲームから手を離したマルス。

外はすでに太陽が真上近くまでのぼっている。


眩しい。


「今んところこれだけ。つかもういいだろ⁉寝かせてくれ。。。。」


あれから何回同じゲームをやらされたことか。

最終的な勝敗は3973対27。

俺がマルスに勝てたのはほんとに最初の30分くらいだけ。

マルスが操作のコツをつかんでからは全く勝てなくなった。

まぁ、50回に1回くらいはまぐれで勝てたけどさ。

けどさ、けどだよ?

全く勝てないゲームを、しかもおんなじゲーム。

それを真夜中からぶっ通しでお昼までとかさ、、、。

マジでただの拷問から。

自覚して?


「えぇ、もう終わり?まだ遊び足りないよぉ。」


なんでこいつはこんなに元気なんだ?

こいつだって寝てないだろ。

アドレナリン?


「おしまい、だ!さすがにもういいだろ。同じのずっとやってて飽きないのか?」


ストレージに保存しておいたコーヒーをマグに注ぎ、一服。

ついでに小腹が空いたのでレモンパイを出す。

さすがストレージ、時間経過がないからコーヒーは淹れたて、パイ焼きたてサクサクだ。


「面白いものは何回やっても飽きないよぉ。それよりそれ、僕にもちょーだい?」


マルスが物欲しそうな顔でそんなことを言ってきた。

俺も鬼じゃない。

マルスの分もストレージから出してやり2人でブランチにする。

マルスの分が若干小さいのは気のせいだ。

決してお菓子で徹夜ゲームの仕返しをしているわけじゃない。

たまたまだ。


「いや、面白くたって飽きるもんは飽きるよ。で、どうだ?俺があげられるのはこんなんだけどアルの方がまだ魅力的か?」


忘れるところだったけど俺がこいつに付き合ってるのはそのためなんだよね。

アルに情報を回させないため。

いずれバレるだろうけど遅いにこしたことはないしな。

それに敵の情報に内通している者がいるのはこちらとしてもありがたい。


「んーー。んー、どーだろうなぁ。ねぇ、君さぁ、時間さえあれば他のゲームも作れるのかぃ?」


おい。

ここまで狂うように熱中しといて即決しないんかよ。

どんだけアルの世界が魅力的なんだこいつ。


「単純なモノならすぐに創れるし、複雑なモノでも時間かければそれなりのものは作れんじゃねーの?」


なんかもうどうでもよくなってきた。

どうせいつかは相対しないといけないんだし。

うん、つかれたんだよ、おれ。


「もっと面白いもの、、。」


まるで夢遊病者のような定まらない視線でゲーム機を見つめるマルス。

まさしく夢現って感じだ。

アルの誘いも魅力だがゲームの可能性にも相当な魅力を感じているらしい。


だがゆっくりと選ばせてやるほど俺はお人好しじゃない。

なにせベッドが待ってるからな。

もう疲れたんよ。

はよ寝たいんじゃ。。。。


「別にお前がアルの誘いに乗るなら乗るでかまわない。時が早まるだけの事だ。だが俺も敵と仲良くする趣味はないからな、ゲームの試作はこれで終わり。この試作機も破棄して別の物に創りかえる。まぁ好きな方をさっさと選んでくれ。」


実際俺はそこまでゲーマーと言うわけでもないしな。

ゲーム機がなくても生きていける。

アルの事は何とかしよう。

だからほんとに、ほんとに早く寝かせてくれ。


「僕はさぁ、死ぬまで道楽に耽ってみんなの事を嘲っていたいんだよねぇ。必死に足掻く姿とか絶望に希望、ほんっとに笑えるんだぁ。」


今までで1番の笑顔でとんでもないこと言いやがった。

可愛い顔してドSかよ。


「だからさぁ、王が信じて疑わない未来ってやつが壊れたときの顔はきっと見物だよねぇ。」


まぁ確かに信じてたものが崩れるのって絶望しかないわな。


「ん?ってことは、、、、、。」


「鈍いなぁ、君は。僕はゲームを選んだってこと。だから次のゲームよろしくねぇ?」


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