第157話 真の目的
*
「あいつの様子はどうだ?」
ロイスがクラウドの待つ部屋に戻るとクラウドがそんなことを聞いてきた。
彼を見るその視線はいやらしく濁っている。
汚らわしい。
そんな浅はかな考えさえ隠すことができぬからお前は力を持てぬのだ。
ロイスは無表情の裏でそんなことを考える。
だがまだこいつの機嫌を損ねるわけにはいかない。
こんな奴の下についていることにこれ以上ない嫌悪を覚えるがここは我慢だ。
俺にはまだやるべきことがある。
「そうですね、今のところおとなしくしております。ですが彼が強者であることは間違いない。甘く見ない方がよろしいかと。」
ロイスの前に立ち、現状を報告する。
リュースティアの前から立ち去った時、彼から諦めのような雰囲気が出ていたのは事実だ。
だが彼の目から逃走の意思は消えていない。
つまりまだ油断はできないということだ。
「ふん、お前は奴を過大評価しすぎだ。今のあいつに何ができるというのだ?あいつが音を上げるのも時間の問題だ。それまではしっかりと監視をしておけ。」
「はっ。」
クラウドに敬礼をし、そのまま部屋から立ち去る。
立ち去る際にクラウドに蔑みの視線を向けてみたが計画が半ば成功し、領主の座しか見えていないクラウドは気が付くことがない。
*
「どーう?彼はぁ。君のお眼鏡にかなうかなぁ?」
ロイスが部屋に帰ると先客がいた。
まるで自分の部屋のようにソファでくつろぎながら男が訊ねてきた。
「どうだかな。まだわからん。」
男の向かいに腰掛けながらロイスが言う。
そんなロイスを面白そうに見つめながら男はどこから出したのか二つのグラスに酒を注いでいた。
いつの間にか酒の肴になりそうな小料理がテーブルに並んでいた。
相変わらず準備のいいやつだ。
「そう。けどそういう割にはずいぶん楽しそうだよぉ?ほんとは早く戦ってみたいんでしょー。」
グラスに並々と注がれたお酒を傾けながら男は言う。
肴には手を付けない。
これはいつものことだ。
男は酒は飲むが肴に手を付けることはない。
男が持ってくる肴はいつもロイスのためのものだ。
というよりこの男が固形物を口にしているところを見たことがない。
「お前にはそう見えるか?」
そういいながらロイスも酒に手を伸ばす。
久しぶりにこいつと酒を酌み交わすのも悪くない。
こう思うのもリュースティアを前に気分が高揚しているからかもしれない。
「見えるねぇ。まあ僕も君がどうするか楽しみではあるしぃ。高みの見物とさせてもらうよぉ。」
「なんだ、お前は今回見物するだけか?てっきりあのお方からの指令を受けたものと思っていたが。」
ロイスは男が何か指令を受けて来たものと思っていたがどうやら違ったようだ。
だがこいつが何の目的もなしに来たとは思えない。
こいつにどういう思惑があるにしろ目を離さないにこしたことはないだろう。
「今あのお方は忙しいからねぇ。些末な出来事まで気にしていられないんだよぉ。それにすべての報告に耳を傾けていられない。つまり君は好きなようにできる。それを僕が見て楽しむ。最高の息抜きじゃない?」
*
「さてと、どうすっか。半日たったけどこの結界弱まる気配全くしないしなぁ。」
結界に取り残されたリュースティアは座ったまま半日を過ごした。
頭で様々な考えが浮かんでは消えていく。
どれもこの結界を解くには一歩足りない。
そもそも力が封じられたこの状態ではできることが限らる。
「うーん、というかあいつは何でここまで俺の詳細を調べられたんだ?俺の力をここまで封じられているってことは俺が全力に近い状態の時を見てたってことだろ?いつだ。いつの戦いを見ていた?」
1人で寂しく牢にいると寂しくなる。
だからつい独り言を言ってしまう。
いつもなら精霊たちと念話ができるのだが念話を封じられてしまった。
つまり話相手がいない。
寂しいことこの上ない。
「まぁとりあえずこの結界を解析してみるしかないよな。頑張れ、創造スキル。。。。。」
*
「ラウス様、こちらを。」
ラウスの執務室をノックする音が聞こえた。
ノックの音から慌てている様子がうかがえる。
ナギらしくないな。
そんなことを思いつつもラウスはナギを招き入れる。
「なんだナギ?今は職務中だ。急ぎではないのなら後にしろ。」
「申し訳ありません。ですが先ほどこちらが」
そう言ってナギが手にもっていた手紙を差し出してきた。
あて名はラウス。
差出人の名前は書いていないがこの字には見覚えがある。
それにこのわけのわからないマークはあいつだけが使うものだ。
あいつが手紙を出すということはよほどのことがあったのだろう。
心なしか手紙を開封する手に焦りが見える。
「なっ、これは、、、、!」
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