第156話 結界師

「こうも簡単に引っかかってくれるとはな。」


奥にいた人物が声をかけてきた。

光の具合で顔は見えないが、ロイスのものではない聞いたことのない声をしている。

体格も背が低く丸い。

ということはおそらくこの人物がロイスの主、クラウドだろう。

彼の声にはどこか他人を見下している節がある。

それでいてへつらうようなねちっこさも持ち合わせているから声を聴いた瞬間に全身に鳥肌が立った。

こっちに転生してから始めての経験、、、。


あっ、俺こいつたぶん生理的に無理な奴だ。


「ふん、言葉もでないとは。Sランク冒険者といえ存外大したことのないものだな。やはり、あの兄上が選んだだけの人物というわけか。」


リュースティアが嫌悪のために口をつぐんでいたのをどう勘違いしたのか的外れな意見を述べてくるクラウド。

そしてそんな言葉の端端に兄、ラウスへの嫉妬、嫉み、嫌悪がちらついている。

その数少ない言葉を聞くだけでだけでわかってしまった。

たぶんこいつは優秀な兄に対しての劣等感をこじらせて自らのほうが優秀であると思い込んだイタイ奴だってこと。


「悪い、想像以上に想像通りで拍子抜けしてた。で、俺に何の用?ずいぶんなもてなしみたいだけど。」


そっちがその気ならこっちだってわざわざ下手に出る必要はない。

ちゃんと話す気で来たのにな。


「減らず口を。いつその口が閉じるのか楽しみにしておこう。私の話はそれからだ。」


口元に思いっきり気持ちの悪いにやけ笑いを浮かべどこかへと立ち去るクラウド。

つまるところリュースティアは軟禁されたということだろう。

もっともこんな鉄の檻でリュースティアを閉じ込めておけると思っているのだとしたらずいぶんとおめでたい頭をしている。

見張りはロイスだけ。

これじゃあ逃げてくれって言ってるようなもんだ。


「用がないなら俺、帰るけどいいよな?」


リュースティアは牢の外で腕組みをしながらこちらをにらんでいるロイスに向かって言う。

ロイスからの返事はない。

組んだ腕を外すこともなく、むしろ一歩下がって壁に寄り掛かった。

しかし目だけは油断なく光ったまま。

だがそんな彼の態度がやれるならやってみろ、とでも言いたげでなんだがすごく癇に障った。

だからリュースティアはさっさとずらかることにした。

そして軟禁されたと、然るべきところに通報しよう。


「、、、、、あれ?」


「はっ!」


「はぁぁあああ!!!」


「【吹き荒れろ 風神】」


「『シルフ!ディーネ!ルナ!』」


「、、、、、、、。」


「、、、、、、、、、。」


「、、、、、、、、、、、、、え?」



にやり。


今まで無表情で目だけを鋭く光らせていたロイスの口元がゆがんだ。

そして緩慢な動作で寄り掛かった壁から離れると組んでいた手をほどきこちらに向かってきた。


「どうだ?俺が特別に用意したもてなしは。」


こいつ口調かわってね?

というか口調と一緒にオーラというか纏っている空気すら一変した気がする。


「なにをしたっていうんだよ?」


リュースティアはその顔をゆがめながら、にやにやしているロイスに向かってぽつりとつぶやく。

視線は足元に固定したまま。

勝ち誇った表情をしているであろうロイスの顔など見たくない。


悔しい。

これが悔しくないわけがない。

リュースティアは牢の中で転移魔法をはじめとした魔法、純粋な力技、相棒風神、精霊との念話、持てる限り、思いつく限りのこといをすべて試した。

だがその結果はリュースティアを牢から出すものとはなりえなかったのだ。

マップ機能などのスキルもすべて封じられてしまっている。

つまり今のリュースティアは一般人以下でしかない。


「結界師、という言葉は聞いたことあるか?」


結界師?

名前から想像はつくけど聞いたことないな。

ギルドのジョブにもなかったはずだ。


「その顔だと知らないようだな。無理もない。結界師とはある地方のみで伝わる秘術の1つだ。簡単に言えば特定の条件下で相手を拘束、無力化する範囲魔法だ。」


ここに来てそんな秘術とかありかよ。

けどただの範囲魔法なら俺の創造で相殺できるはずだ。

そもそも魔法やスキルはともかく力まで半分以下にするなんて規格外もいいところだろ。


「わからないという顔をしているな。確かにお前の考えている通り普通の結界であればここまで強力なものは作れない。だが条件をより細かく、対象をより選別することで強力な結界を張ることが可能になるんだ。つまりこの結界はお前だけのために作ったお前だけの結界なんだよ。ここまで言えばわかるだろ?」


「つまりこの結界は俺以外には何の効力も働かない、ってことか。」


それでも理解できないことは多々あるが。

つまりは俺専用の結界ということ。

抜け出すのは簡単じゃなさそうだ。


「理解が早くて助かるよ。そのためにお前の実力から生活習慣、交友関係に至るまでを調べたんだからな。」


「この前の襲撃はそういうことか。だけどあの時は大した力は使っていないはずだ。」


どうりであんな意味のないタイミングで襲撃を仕掛けてきたわけだ。

本当の目的は別にあったのなら納得だ。

それにしてもまだわからないことが多すぎる。

なによりこのロイスとかって言うやつの目的が分からない。

これは直感でしかないがクラウドの目的とこいつの目的は別にある。

そして俺にとってはロイスの目論見の方が大きな障害となる気がする。

敵はロイスか?


「それは企業秘密だ。しばらくその特別室で考えてみたらどうだ?逃げ出せるとは思わないがおとなしくしていた方が身のためだ。誰にも傷ついては欲しくないだろ?」


そう言い残すとロイスもクラウドが去っていた扉から出ていった。

部屋には誰もいない。

牢の中にはリュースティアは1人。

おとなしくしていろ、などと言われるまでもない。

リュースティアにはここから出る算段が全く思いついていなかった。









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