第154話 慢心は危険のフラグ
*
「で、えーっとロイズさんだっけ?俺になんの用?」
一同が朝食を食べ終え、ようやくリビングに通されたロイス。
そこで簡単な自己紹介をし、今に至るというわけなのだが。
リュースティアの対応は初対面の相手にするものとしてはいささか失礼なものだった。
「ロイスです。クラウド様があなたに会いたいとおっしゃっています。」
あれ、ロイスだっけ?
まあいいや。
それよりもクラウドって誰だよ。
どっかで聞いたようなことがある気がするんだよなぁ。
「クラウドって誰?俺、知らないんだけど。」
喉元まででてきてんだけどな。
あと一口が出てこない。
ということで考えるより聞いた方が早いな。
リズさん、頼んます。
というかそもそも知る必要も会う必要もないとは思うんだけどね。
そんなことを思いつつも隣に座っているリズにこっそりと尋ねる。
「忘れたんですか?ラウス様の弟です。」
あきれた顔をしながらも小声で答えを教えてくれた。
うん、やっぱりリズはなんだかんだで優しい。
てかクラウドってラウスさんの弟か。
なるほど、良い事考えた。
「あー、思いだした。あれか、この前ラウスさんのところに来てた頭の悪そうな、いかにもモブですって感じのさえない奴だろ。」
「ちょっ、声が大きいです!」
わざとだもん。
だってこいつ、ロイスだっけ?
こいつこの前の襲撃者たちと同じ所属だぞ。
いくつかの組織に所属してるから普通の鑑定ならバレないんだろうけど俺の目はごまかせない。
つまりこいつの主であるクラウドってやつが今回の黒幕ってことだろ?
「こう面と向かって侮辱されると反応に困りますね。ですが今回は聞かなかったことにしておきましょう。で、クラウド様に会われるおつもりはおありですか?」
うん?
意外と冷静な奴だな。
逆キレしてくれたらこっちのもんだったんだけどな。
「そのクラウドってやつに会って直接用件を聞けばいいんだろ?俺はどっかの誰かのせいで暇だからな、いつでもいい。」
どっかの誰か。
それは言外にお前らが裏で糸を引いてんだろ?という意味だ。
相手の反応を見るためにロイスに威圧をかけてみたがロイスの顔は涼しいものだ。
どうやらこの程度の威圧には動じない程度に場数を踏んでるらしい。
となると少し厄介だな。
まっ、けどレベルやスキルからして俺よりは弱い。
なによりこいつから圧倒的な力は感じない。
「そうですか、では案内しましょう。こちらへ。」
リュースティアの思惑を知ってか知らずか一瞬だけ口元に笑みを浮かべる。
だがそれも本当に一瞬。
ゆえにこの場でこの男の表情の変化に気がついたものはいないだろう。
そしてそんな笑みの影もない無表情で立ち上がり廊下がある扉へとどんどん歩いていってしまう。
そして扉が開き、閉まる音が聞こえた。
その間、彼は立ち止まることも、後ろを振り返ることもなかった。
*
「リュースティアさん、いいんですか?あの人、絶対になにかあります。それなのにのこのこついていくなんて危険すぎます。」
ロイスが部屋から出るとすぐにリズがそんなことを言ってきた。
まぁどっからどう見たってあいつ怪しいもんな。
心配すんのはわかる。
けど虎穴に入らずんば虎子を得ずって言葉あるだろ?
あっ、さすがにそれは知らないか。
「まぁなんか企んでるにしろ取り合えず会ってみないとどうしようもないだろ?それに裏でこそこそやられる方がめんどいし。釘をさすって意味でもあっといた方がいいだろ。」
「それはそうかもしれませんが。やっぱり危険です。」
「まあまあ。それにこの街に俺より強いやつなんていると思うか?あいつが魔族より弱いなら万が一なんてないだろ。それに仮に何かあっても俺にはみんながいるしな。すぐに精霊か召喚獣使ってSOS発信するからさ。」
余裕、余裕。
そう言ってヘラヘラと笑うリュースティア。
相手を見下しているわけでも油断があるわけでもない。
ただ己の使命を知り、己の強さを知り、己がこの世界で強者であるということを知ったのだ。
今までは無知であったがために己の実力の程を知らなかった。
それを知ることで余裕が生まれるのは必然の事だった。
だが、みんなは知っている。
余裕は油断へとつながり、強者であるという自覚は自信へと変わることを。
そして自身は一歩間違えれば慢心になる、ということを。
慢心は時に死の危険を孕んでいるということを。
しかし今まで運に見放され、自身を過小評価していたリュースティアは慢心というものを知らなかった。
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