第153話 動きだす
*
「で、それより先生の方はどうだったの?」
ルノティーナへのお仕置きも終え、リビングで団らん中。
なんでもないことのようにシズが聞いてきた。
いくら先生が苦手だとしても会わずに逃げてしまったことが後ろめたいらしい。
冷静を装ってはいるが手に持ったマグカップが揺れている。
「ん、まあそれなりにってとこだな。先生はシズにもあいたがってたぞ?」
「え、ええ。それはまた今度。」
あははー、相当苦手だったんだなぁ。
シズの顔が引きつってる。
「あっ、そうだ。そういえばリュースティアがいないときにナギさんが領主様からの手紙を持ってきてたわよ。」
「げっ。まじか、それ嫌な予感しかしないんだけど。」
シズがそう言って手に持った、いかにも高級そうな封筒をひらひらさせている。
俺がいない時っていうと先生にしごかれていた3日間の事だろうがわざわざ手紙をよこすなんて嫌な予感しかしない。
いつもなら使者をよこす。
「リュースティアさん、その手紙ってもしかしてあのことでしょうか?」
「いや、それは違うと思う。時間的にも手紙の方が後だろうし。」
「あの事って?」
リュースティアの隣で話を聞いていたリズが心配そうな表情でこちらを見ながら聞いてきた。
リズの言うあのこととは先ほどの襲撃に関することだろう。
事情を知らないシズが怪訝そうな顔で口をはさんでくる。
どうやらリズは説明するつもりがないらしく黙ったままだ。
仕方なくリュースティアは先ほどの襲撃の件を説明する。
「へぇー、リュースティアも大変ね。じゃ、この手紙ちゃんと渡したから。」
シズは興味ないらしい。
当然ながらリュースティアの心配もしない。
いや、いいんだけどね。
別に気になんてしないんだけどね。
なんだかちょっと悲しくなったリュースティアなのであった。
*
「なに!失敗しただと⁉」
屋敷でリュースティア襲撃の失敗の報告を受けたクラウドは激昂していた。
あわよくば今回の襲撃でリュースティアを仕留め、養子の件を破綻にしたかったのだ。
それが失敗したとなると残る手は限られる。
「ええ、ですが今回の襲撃は相手の実力を見るためのものでしたので特に支障はないかと。それに襲撃者にはグレーな集団を使ってあります。我々とのつながりがバレることはないでしょう。」
そんなクラウドの怒りを鎮めるかのようにロイスが冷静に事実を述べる。
リュースティアの実力を見る、そういった時の彼の眼が怪しく光っていたことにクラウドは気が付かない。
「そうか、では当初の予定通りにいくとしよう。ロイス、わかっているな?」
「はい。」
*
「失礼します。どなたかいらっしゃいませんか。」
朝、みんなで朝食を食べていると来客があった。
来客の予定はなかったからリュースティアたちの知らない人だろう。
スコッチを食べることに忙しいリュースティアとルノティーナ、シズに代わりリズが対応のために玄関に向かった。
「リュースティアさん、お客様なんですけどどうしますか?」
「俺に客?」
二つ目のスコッチに手を付けていたリュースティアはそんなリズの言葉に顔を上げる。
ルノティーナとシズは興味がないのか顔すら上げない。
「クラウド様の使者らしいです。」
「クラウドって誰?そんな人、俺知らないぞ。」
名前を聞いても心当たりがないリュースティアは再びスコッチに手を伸ばす。
だが伸ばした手は何もつかむことなく空をつかむだけだった。
「な、ないだと?おまえらぁ!全部食べやがったな⁉」
「あー、おいしかった。」
「ほんとほんと。いつ食べてもリュースティアのスコッチはおいしいわー。」
感想だけがかえって来た。
くそ、お粗末様でした!
「あのー。リュースティアさん、お客さんは、、、、。」
すでに頭の中はスコッチの事だけ。
そんなリュースティアを見てため息をつき、自分もスコッチを食べ損ねたことに肩を落とす。
わざわざこんな時間に来客なんてしなくてもいいのに。
ついそんなことを思ってしまった。
朝食は闘いなのだ。
「俺はいつまで待てばいいのだろうか、、、。」
玄関からそんな来客のつぶやきが聞こえてきたが朝食の事しか頭にない面々にはきっと一言も届いてはいないだろう。
そしてそのつぶやきの主がクラウドの懐刀でもあるロイスだということも、これから何が起ころうとしているのかも、まだこの屋敷の面々は知らないのであった。
こうしてリュースティアの長い一日が始まるのであった。
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