第152話 愛娘と許されざる者
*
「ただいまー。」
3日ぶりの我が家、なんだかすごく懐かしい気がする。
ってことで早速お菓子作りでもしますか。
なんか最近忙しくて全く作れてなかったし。
そもそも俺この世界でパティシエとして生きていく予定だったんっすよ。
いつの間にかSランク冒険者とか上級貴族とか選ばれしものとかいろいろな肩書できちゃってるし。
俺さ、何回も言ってるけど平穏至上主義なんよ。
「リューにぃおかえり。貴族の気品ってやつは身についた?」
「まぁな。それより何もってんの?」
玄関を開けたらルノティーナが二階から降りてきたところだった。
手には何かを抱えている。
「えっ⁉あー、あー、な、なんでもない。じゃ、私忙しいから。」
そういって手に持っている物を背後に隠しそそくさとその場を去ろうとするルノティーナ。
怪しすぎる。
目が泳いでるわ、挙動不審だわ、これは完全に何かやったな。
「ルノティーナ、怒らないから何したか言ってみ?」
優しく、それはもう語りかけるように言う。
「ちょっ!リューにぃ、なんで私が何かやった前提なのよ!」
「いや、だってさ。違うのか?」
ふつうそうだろ。
だいたいなにかしらの問題を起こすのはうちだとキミかシルフなんだよ。
自覚して?
「うっ、そうだけど。そうんなんだけど最初から疑わる私っていったい、、、、。みたいな感じになるじゃない!」
「いや、それは普段の行いだろ。で、何したんだ?」
もういいから早く言え。
「ほら、私スピネルちゃんと修行してたじゃない?」
それは知らんがそういうならそうなんだろ。
「で、すこーし、ほんとに少しよ?ヒートアップしてしまいまして、、、。」
うん。
キミの少しはきっと少しじゃないよね?
それより一つ言いたいが、横文字がほぼ普及していないくせになぜヒートアップはしてるんだよ。
「その時に周囲に少々被害が、、、。あと、スピネルちゃんがけがを少し。」
あ?
スピネルにけが、だと?
「あっ、で、でもスピネルちゃんのけがは大したことなくて打ち身と切り傷が少しよ。」
リュースティアから危険な空気を感じたのか急いで弁明するルノティーナ。
だがそれがどうした?
「ルノティーナ、スピネルにけがさせただと?へぇ、いい度胸じゃないか。もちろん俺に殺される覚悟はできてるんだよな?命乞いなんてしてくれるなよ?」
「ひっ、リューにぃ落ち着いて!わざとじゃないの!事故よ、事故!」
半泣きになりながら弁明するルノティーナ。
だがそんな彼女の言葉など過保護な殺戮者の耳には届かない。
あっ、これ私死んだ。
ルノティーナが自らの死を覚悟した時、救世主が現れた。
「・・・リュー、だめ。」
スピネルだ。
騒ぎを聞きつけたらしく二階から降りてきたらしい。
ところどころ包帯を巻いているが元気そうだ。
それにしてもスピネルがルノティーナをかばうなんて珍しいな。
「スピネル!大丈夫なのか?」
愛娘の無事な姿を見てとりあえずは留飲を下げるリュースティア。
「・・・修行、けがつきもの。ティナ悪くない、半分くらい。」
「私的に、そこは言い切ってくれるとありがたいんだけどなぁ。」
遠慮がちにそんなことをつぶやくルノティーナ。
その言葉に反応する者はいない。
哀れ、ルノティーナ。
「そうか、それにしてもスピネルがちゃんと修行するなんてちょっと意外だったな。どういう風の吹き回しだ?」
「・・・リューの隣に立ちたい。だから強くなる。」
「スピネル、、、、。そっか。ありがとな、頑張れよ。」
どうやらスピネルはスピネルで成長しているらしい。
彼女なりに考え、そのためにすべきことを見つけたのだろう。
そういうことならお父さんは口出しすべきじゃないよな。
けがは成長の証っていうし、ここは温かく見守ろう。
「・・・ん!」
最後に満面の笑みを見せて階段を上がっていくスピネル。
ずっと言いたかったことが言えた、そんな様子だった。
「うんうん、親子の感動のシーンね。我が子はいつの間にか大きくなっているってやつね。じゃ、私はこれで。」
勝手に一人で納得して締めくくりそそくさと立ち去ろうとするルノティーナ。
このどさくさに紛れてリュースティアから一刻も早く逃げたいという気持ちが丸見えだ。
「ルノティーナ、まだ話は終わってないぞ?どこいくつもりだ?」
「あはははー。やっぱりだめ?」
扉に手をかけたままの姿勢でぴたりと静止した後、リュースティアの方を振り向く。
その顔は笑ってはいるが青ざめ、全身から嫌な汗が噴き出している。
「ダ・メ。」
ルノティーナの笑顔に答えるような笑顔で一言。
その顔を見た瞬間に即座に逃走に入るルノティーナ。
だがいくら速さに自信があるとは言えリュースティアに勝てるわけがない。
秒で捕まり連行される。
逃走を図った分、罪は重くなる。
「ぎゃー!!!!!!」
ルノティーナが屋敷に引き戻されて数分後、屋敷からはそれはもう恐ろしい悲鳴が聞こえましたとさ。
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