第151話 汚い大人
*
「リュースティアさん、さっき言ってた人って誰なんですか?」
屋敷までの帰り道でリズがそんなことを聞いてきた。
あんな言い方されたら気になるに決まっている。
「ん?ラウスさんとナギさんだよ。俺たちのこと上から見てたのは。」
そしてリュースティアはというと特に隠すでもなくあっさりと相手の正体をばらす。
反対にリズは想像もしていなかった人物の名前を出され一瞬歩みが止まる。
だがリュースティアはそんなリズなどお構いなしに歩いていってしまう。
リュースティアとの距離が離れ我に返るリズ。
慌ててリュースティアの後を追う。
「ラウス様たちが襲撃者を送り込んだのでしょうか?いったいなんのために,,,,.」
「それはたぶん違うな、あの人たちは文字通りただ見てただけだと思う。」
心配そうなリズにそれだけは伝えておく。
たぶん、とは言っているがリュースティアの中では確実に別口になっている。
「そう、ですか。ならばいったいなぜ?なんだか気持ち悪いですね、明日聞きに行ってみますか?」
顔をしかめつつリズがそんな提案をしてきた。
襲撃者と関係がないのであれば直接問い詰めればいい、おそらくはそれが普通の行動なのだろう。
だがリュースティアが出した答えはというと、、、、。
「いや、いいよ。めんどいし、無視しよ。無視、無視!」
*
「これは気付かれましたかな?」
リュースティアが最後に視線を向けた先、そこには見知った顔がいた。
領主ラウスと家令ナギ、そしてその護衛であろう騎士が数名。
ラウスはそろそろ弟が動き出す頃あいと見てリュースティアの行動を監視させていたのだ。
そして動きがあったという報告を受け、領主自ら出向いたというわけだ。
もちろんばれないように必要以上に念を入れてはいたのだが意味をなさなかったらしいということは今のリュースティアの行動を見ていれば一目瞭然。
「そのようだな。不死の
遠見筒をナギに渡した領主はたいして気にした様子もなくそんなことを言う。
それどころか声からして楽しんでいるようにすら聞こえる。
「よろしいのですか?彼の動き方次第ではこちらの計画に支障をきたします。それに彼がこのままおとなしくしているとも思えません。」
「ふむ、ナギの言うことは確かにそうだ。だがそれは普通の人だった場合だ、あやつは違う。放っておいてもはなにもせん。」
心配そうなナギとはまるで正反対の態度を示すラウス。
ナギはそんな主の態度を不審に思いつつもこれ以上は出すぎた真似であると思い口をつぐむ。
ナギの主ラウスは策士だ、きっと考えがあるのだろう。
「そんなに心配か?」
「いえ、、、、はい。リュースティア様がというよりはラウス様が心配でございます。今回の件は下手をすれば、」
顔に出ていたらしい。
家令として何十年も務めてきたがまだまだだ。
心の声が顔に出てしまうなんて未熟もいいところだ。
もっともナギの表情の変化を見破れる人間などこの世界にラウスひとりくらいのものなのだが、、、、。
比較対象を知らないナギは己が未熟である、そう考えるしかない。
そして促されるまま本音を伝えようとしたら途中で遮られた、みなまで言わなくてもわかっているということだろうか?
「そんなに心配ならばあやつが何もしないと言った理由を説明してやろう。それはめんどくさいからだ。」
「めんどくさい?それだけの理由で何もしない、ということですか?」
信じられない。
面倒だからって自分に危害があるかもしれない企みを容認するなんて。
それにおせじにも信頼関係のある相手とは言えない。
面識がないわけではないが付き合いの日は浅く、身内に迎い入れたとは言え、親しいとは言い切れない相手だ。
「信じられないかもしれないがあやつはそういうやつなのだ。めんどくさいから知らんぷりを決め込む、だが自らに降りかかる火の粉は払う。あやつは何があっても対応できる実力がありその準備もしている。だから気が付いても無視を決め込めるのだ。」
「なるほど、確かにリュースティア様ほどの実力なら大抵の事ならばなんとかなさるのでしょう。ですがそれでも事情を知りたいとは思わないのでしょうか?」
「ははは!事情を知りたいだと?逆だ、あやつはできることなら知りたくないというだろうよ。面倒な事にはかかわりたくない、というのが本音だろう。」
さすがは切れ者領主、といったところだろうか。
ばっちりリュースティアの人となりを把握している。
「さようでございましたか。やはり私はまだまだ未熟者のようでございます。」
「気にするな、あやつが特殊なのだ。しかしこれはこれで都合がいいかもしれん。リュースティア、我が養息子。こちらもそのつもりで大いに利用させてもらおう。悪く思うなよ、これが大人の戦い、というものだ。」
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