第148話 ヒステリック先生

「うっ。も、もう無理。勘弁してくれ。」


暖かな日差しが降り注ぐ午後。

そんな陽気な天候とは正反対な陰険な空気が室内には充満していた。

次第に強くなっていく外の誘惑。

そしてその誘惑が強く成ればなるほどこの部屋の陰湿な空気が増していくのだ。

そんな外からの誘惑を必死で堪えること5時間。

そろそろ限界だ。

外に出れなくてもいい、せめて休憩、いや食事をくれ、、、、、。



とまぁリュースティアの現在はこのような軟禁状態、精神的にはそろそろ限界が近い。

なぜこのような状況になっているのかというと、それは数日前のある出来事までさかのぼる。

すべては身から出た錆、リュースティア自身が悪いのだ。



「リュースティアさん、今日はどうしますか?」


朝みんなで食卓を囲んでいるとリズがそんなことを聞いてきた。

商業ギルドから営業再開の許可が下りていない現状ではリュースティ達にはやることがない。

冒険者ギルドで仕事をもらおうにも仕事を受けられるのはリズとシズだけだ。

つまりプータローのリュースティアとルノティーナは日がな一日暇を持て余しているのである。

ルノティーナは暇なのを良い事に鍛錬に明け暮れしまいにはスピネルの修行をつけるとまで言いだした。

その時のスピネルの顔と言ったら、、、、。

笑えない。


「んー、いつも通り厨房で試作でもするよ。二人は?」


「私はギルドの依頼。簡単なものらしいんだけど受けてくれる人がいないらしくてラニアさんに頼まれちゃったの。」


温野菜のサラダを食べながら少しおっくうそうに話すのはシズだ。

どうやら乗り気ではないらしいがラニアさんの手前、断れなかったのだろう。

がんばれ。

というかフォーク刺さったニンジンをそんなに恨めしそうに見たってどうしようもないだろ?


「1人で大丈夫か?」


「低ランクの依頼だし場所も領内だから。大丈夫よ。」


領内ならまあ心配ないか。

仮になんかあっても領内ならわかるしな。


「リズは?リズもなんか用事あんの?」


「そうですね、用事というほどのことでもありませんが実家に行く予定です。」


「ポワロさんにでも呼ばれてるのか?」


ポワロさんか、なんか久々だし俺もあいさつに行こうかな。

リズたちと婚約した手前ポワロさんは義父になるわけだしな。

関係を築いておいて損はない。

むしろ少しでも関係を良好にしておいて後ろ盾を増やしておいた方がいいか?


「いいえ、お父様は確か領外に出られているはずです。今日は先生がいらっしゃるとのことでしたので顔を出さないと小言を言われてしまうんです。」


「先生?てかならシズはいかなくていいのか?」


「私はパス。苦手なのよね。っともうこんな時間!じゃあ行ってくるわ、お姉ちゃん先生によろしくねー。」


まるで逃げるかのように家を出ていくシズ。

リズが隣で「まったくもう、シズったら。ちっとも変わらないんだから。」とか言っている。

ああ、逃げるように、じゃなくて逃げたんだな。

今日先生が来ることを知っていたから気が進まない依頼も受けたってことか。

いくらラニアさんの頼みとは言え断ろうと思えば断れるしな。


「シズが苦手ってどんな人なんだ?」


「悪い人ではないんですけど、ちょっと厳しい方なんです。よかったらリュースティアさんもあいさつされますか?」


ちょっと厳しい?

それだけでシズがあそこまで拒否反応をみせるのだろう?

絶対それだけじゃない気がする。

できれば行きたくないし関わり合いになりたくない。

もともと先生という人種とは相性が悪いんだよね。

けどリズの手前行かないわけにもいかない、か?


「あー、そうだな。一応あいさつはしとくか。」




「先生!お久しぶりです。」


伯爵家に着くとすでに先生とやらはきていた。

応接室でシャルロッテさんと談笑中らしく俺たちも応接室へ通された。

若干緊張した声で隣にいるリズが挨拶をしているが俺は先生とやらを見ていた。


第一印象→厳しそう。


艶のある黒髪をきっちりと頭の上で結っていて

目は鷹のように鋭くつり上がっていた。

笑いシワも、、、、ない。


「これはリズ様、お久しぶりでございます。お変わりないご様子で何よりにございます。ところでシズ様はどちらに?」


何とも言えない厳格な声をしていらっしゃる。

この声で怒られたらなにもしてなくても何かしたって気にさせられそうだ。

シズが苦手な気持ち、わかるわ。

俺も早く帰りたい。


「先生もお元気そうで。シズはどうしても外せない仕事だそうで、先生によろしくとのことでした。」


おっ、さすが血を分けた双子の姉、

さすがに妹を売るようなことはしないか。


「そうですか、シズは相変わらずなようですね。それよりもそちらの男性の方はどなたでしょうか?」


シズ、しっかり逃げたのバレてるやんけ。

次会うとき大丈夫か?

ってシズの心配してる場合じゃねえ。

あいさつ、あいさつっと。


「こちらはリュースティアさん。ラウス様の養子で私の婚約者です。」


「リュースティアです。はじめまして。」


ピクッ。

な、なんだ?

先生の目がピクピクしだしたんだけど。

どういうことかと思ってリズの方を見ると残念そうな哀れむような目で見られた。

もしかして俺、地雷踏んだ?


「リュースティア様、初対面の人との挨拶のマナーがなっていないのではありませんか?」


「挨拶のマナーってなんです?」


普通に挨拶したつもりだったんだけどなんかまずったか?


「なっ!あなたはメーゾル家の人間ではないのですか!挨拶のマナー1つも知らないなんて家名を汚すおつもりですか!?」


あー、これ完全に地雷踏んだわ。

ヒステリーおこしてませんかねぇ先生。


「いや、養子になったの最近のことだし。家名を汚すとか大袈裟な。」


「何をヘラヘラと!あなたはあのメーゾル家の人間になったんですよ、自覚を持ちなさい!いいえ、今からその自覚というものをたっぷりと教え込んであげます。こちらへ来なさい。リズ様、お部屋を1室と婚約者をお借りします。」


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