第146話 たぬきじじい
「それで?」
リュースティアたちが帰った城の一室では領主とナギが何やら深刻な表情で話し込んでいた。
「はい、当初の予定通りにございます。弟様はじきに自らの策を利用されたことに気が付くものと思われます。」
「そうか。リュースティアを養子にしないために商業ギルドと組んで策を講じたにもかかわらず私にそれを利用され養子にすることも阻止できない。そうなればヤツはすぐにでもリュースティアとの面会を求めてくるだろう。」
ナギから受け取った資料を眺めながら弟の性格を考え、次はそう来るだろうと思ったことを伝える。
浅はかで欲深い弟のことだ、そろそろ汚い手に出てくるはずだ。
そうなったらもはやこちらのもの。
「ではこちらもそのつもりで準備をしておきましょう。してリュースティア様はどのようになさるおつもりですか?」
「何も言うな。おそらく面会次第では暗殺者の類が放たれるやもしれんが放っておけ。リュースティアならどんな相手だろうと引けを取るまい。いいか?そのあとが肝心なのだ。その暗殺未遂から弟のところまで罪状をひっぱいあげ、あやつの罪をすべて白日の下にさらすのだ。」
「はっ、ラウス様の仰せのままに。しかしいくら弟様の罪を裁くためとはいえリュースティア様を養子にまでなさる必要はあったのでしょうか?素性のわからないリュースティア様より他に適任者がいたのではありませんか?」
これはナギが以前から疑問に思っていたことでもある。
時間さえかければ弟であるクラウドの罪など暴くには容易いはずだ。
にもかかわらず領主であるラウスは事を急ぐように養子縁組みまで取り決めてしまった。
早計であると言わざるをえない。
それにナギはリュースティアが悪人だとは思わないが完全に信用しているとは言えない。
彼には何かしら秘密があると踏んでいる。
それもこの世界を揺るがすような大きな秘密を。
「うむ、ナギの言うことももっともであろう。だが私とてなんの考えもなしにあやつを迎え入れたわけではない。」
そう言って含みのある笑みを見せる。
その表情から領主の考えを読み取ることはできない。
そしてそこで言葉を切ってしまう。
つまらそのあとは言葉にするつもりがないらしい。
「ではすぐにでも領主の座をお譲りになるおつもりですか?」
「、、、、、。そうだと言ったらお前はどうする?」
「わたくしの主はラウス様ただ一人にございます。そのラウス様のお考えとあればわたくしは付き従うまででございます。」
かれこれ数十年、領主に使えてきたナギだ。
完全とは言えないが領主のことはそれなりにわかっている。
なればそんな領主が無駄なことをするはずはない。
そうなればナギが出すべき答えはただ1つ。
自分の主人を信じ付き従うのみ。
「相変わらずだな。まあいい、お前にはまだまだ働いてもらうからな。」
「はっ、何なりとお申し付けください。」
そういって一礼をするとナギは領主の部屋から退出した。
部屋に残されたのはラウスひとり。
相変わらず、その顔から彼の考えを読み取ることはできない。
「さて、お前はどう動く?」
そんなつぶやきとともに部屋の明かりが消えた。
一方、リュースティアは悪事を暴くために自身が利用されようとしていることとは露ほどにも思わず屋敷で平和をかみしめているのであった。
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