閑話 粛清

??:「守備はどうだ?」


モブ:「はっ。ここに。」


そう言って男は今にも崩れおちそうなタワーにさらに袋から出したものを加える。

それは可愛いラッピングが施された、この場に似つ変わしくないものだった。

よく見るとタワーのように積みあがっている者もみな同じようなものだ。

ピンクや赤などかわいらしい袋で包まれ、リボンが結ばれている。

そしてそれらのプレゼントからはおいしそうな甘い匂いが漂っていた。


??:「ふふふ、順調そうだな。では私ももう人肌脱ぐとするか。」


モブ:「粛清対処はもう残り僅か、日付が変わるのも時間の問題。我々の勝利は確定

    したも同然ですね。」


??:「ああ。我々の恨み、思い知るがいい!さぁいけ、われらが悲願のために!」


モブ:「サー!イエッサー!」





「えっ、なに俺んとこだけじゃないの?」


チョコを取られたリュースティア一行はギルドに来ていた。

あの乱入者の正体を突き詰めるためだ。

チョコを取られた後すぐに相手を見ようとしたが抵抗レジストされた。

つまり相手はそれなりにレベルが高く、リュースティアの自己鑑定ステイタススルーを阻止できる何かを持っていたということだ。

それほどの者をギルドがいや、ラニアさんが知らないはずがない。


そう思ってきてみたのだがどうやらギルドに助けを求めたのは俺だけではなかったらしい。


町人A:「お、俺のチョコー!!!どうしてくれるんだ!」

町人B:「殺す殺す殺す。チョコ奪取。恨みはらすべし。」

町娘C:「せっかく買ったのにどうしてよ、ねぇ!」

町娘D:「何とかしなさいよ!犯人捜しなんてまさに冒険者の仕事じゃない!」


受付:「み、皆さん落ち着いてください!」



うわぁ、、。

受け付けのおねえさんがもみくちゃにされてる。

というかみんなの殺意が、というか目が、、、、。

チョコの恨みは怖いって言うけどそれにしては本気すぎね?


「はぁ、皆さんとりあえずこちらへ。」


受け付けのおねえさんからの助けを求めるような視線を受け深いため息をつくラニアさん。

その様子を察するに今日一日あんな感じなのだろう。

チョコを取られた人たちがギルドに駆け込んでくる、実際に俺たちも来たからなんとも言えないけどギルドって大変なんだな。


「こんな感じでチョコの盗難が多発しているんです。場所も時間も様々な事から考えておそらく犯人は複数、しかもきちんと統率が取れています。」


奥の部屋に入り促されるままにソファーに腰掛けた。

そして一同が席に着つくとラニアさんが今回の事件の詳細を話し出した。

とはいってもギルドにも大した情報は集まっていないらしい。

それよりも受付のおねえさんは放置していいのか?


「複数犯で統率がとれてるってことはただの賊ではなさそうね。」


「それにやり口や逃走経路に関してもこの街を知り尽くしていることは間違いないわ。」


ルノティーナとシズがどんどん考察を進めてくれている。

なにも考えなくていいとはありがたい。

それにしても賊ねぇ。

メーゾルも物騒になったな。


「ええ、ですがこの街にそんなことができる反社会集団は確認されていません。それに被害はチョコのみでけが人や損害物はいっさい出ていません。」


ふーん、チョコだけが目的なのか。

というかそれってもしかして、、、、、。

いや、もしかしなくてもあれでしょ!

あれしかないじゃん。


「非リアの恨みかよ、、、、、。めんど。」


犯人の目的が分かったリュースティアはつい本音が口から出てしまった。

そしてそれを目の前のラニアさんが聞き逃すはずもなく。


「リュースティアさん、犯人に心あたりが?ひりあというのはよくわかりませんが何か知っているならぜひご協力をお願いします!」


「犯人に心あたりがあるわけじゃなくて動機のほう。犯人たちはチョコをもらえるような相手がいない、つまりただの逆恨みだよ。モテない男たちのな。」


そう、これはモテない男たちのひがみ。

つまりこれ以上めんどくさい出来事はないのだ。






??:「ふふふははは!これでばれんたいんはおわりだ。リア充共め爆発しろ、はは

    ははははーっははー!!」


部下が持ってきた最後の包みをタワーに積み上げ男は声高に笑いと歓声を上げた。

これで忌まわしき日も終わったと同然。

自らの勝利に高笑いするのも無理はない。

だがそんな男の勝利の余韻を邪魔する者が現れた。


「なんかいいことでもあったのか?」


もちろんリュースティアだ。

あのあとラニアさんにたのまれ犯人探しをしぶしぶ引き受けここにたどり着いた。


??:「こ、小僧!どうしてここが⁉」


明らかにうろたえる男。

突然の出来事に動揺し、自らその正体をばらしてしまっている。


「やっぱりあんたか。俺から逃れられてかつ俺のことを小僧呼ばわりすんのはあんただけだもんな。そうだろ、ドゥランおっさん!なんのためにこんなくだらないことしたんだよ?」


男は観念したのかかぶっていたフードを外しリュースティアの前に出てくる。

やはり男の正体はギルドマスターのドゥラン・オリビアークだった。


「リア充のお前にはわかるまい。だがどうしてここが分かった?この魔道具アーティファクトは完全に俺のことを隠していたはずだ。」


そう言って首にかけられていたネックレスを見せてきた。

おい、それってギルドに保管してある国宝の魔道具アーティファクトじゃねえか、、、、。

なに勝手に借用してんの?


「んなの簡単だ。犯人じゃなくてチョコを調べたんだよ。この街で最もチョコが集まっている場所がここだった。なら当然犯人もそこにいる。」


「なるほど、それがお前のスキル、探索魔法か?このメーゾルすべてを調べたのか。」


すごい事した、みたいに言ってるけどマップで検索しただけなんだよね。

そんでそのまま転移してきたから実際1分もかかってないとは言わない方がいいんだろうな。


「そこはあんたの想像に任せるよ。じゃ、このチョコは持ち主に返すとして、おっさんには俺と来てもらう。部下ってのはどうせギルドにいるモテない冒険者たちだろ?」


リュースティアはチョコのタワーをストレージに入れ、改めてギルドマスターに向き直る。

ギルドマスターは目の前で崩れんばかりに積み上げられていたチョコが一瞬にして消えた事実に顎が外れそうなほど驚いていた。


「じゃあ行くぞ?めんどいから言っとくけど抵抗しようとか考えんなよ。」


そう言った瞬間ほうけていたギルドマスターが正気を取り戻したらしい。

そして剣を構えた。

忠告したのに抵抗する気満々じゃん。


「思いあがるなよ、小僧。Sランクだからといってこの俺が引けを取るとは思うな!」


そう言って切りかかろうとしてくるギルドマスター。

遅い。

剣で受けてもいいがそれだと時間もかかりそうだし、何より相手をするのがめんどくさい。


「めんどいから強制な。文句言うなよ?【風縛ふうばく】よし行くぞー。」


リュースティアが魔法のトリガーを引くと同時にギルドマスターの体が見えない縄で拘束され宙に浮いていた。


「んーんん!」


口まで押えられているのか何も言えない様子だ。

リュースティアはそんなギルドマスターの姿を一瞥し心から嫌そうな溜息をついた。

任務完了、ギルドに戻ろう。



「はい、あとはラニアさんに任せるよ。俺は取り返すもんとり返したし帰る。」


風に拘束されたままのおっさんをラニアさんに引き渡し早々にその場を退散する。

なぜかって?

そんなのラニアさんの顔を見ればわかるってもんだ。

ついおっさんに同情しそうになるほど、、、。


まぁいい、とりあえずこれで一件落着。

さっさと屋敷に帰ってみんなからのチョコをいただくとしますか!


そんなことを思いながらギルドを後にするリュースティア。

ギルドを出た瞬間、後ろから耳をふさぎたくなるような悲鳴が聞こえてきたが聞こえなかったことにしよう。




おっさん、今度墓に花でも手向けに行ってやるからな、、、、、。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る