第136話 月の誓い


「だからルナはあいつのこと詳しかったんだな。二人に何があったのかは聞かない。けど話したくなったらのならいつでも聞いてやる。俺はさっきも言った通りあいつを助けたい。そのためには誰よりもあいつのことを知っているルナに力をかしてほしい。」


彼女の頬にはいまだに涙が光っている。

おそらくルナはアルフリックと別れたくて別れたのではないだろう。

なにか理由があったのか一方的にアルフリックが去ったのか。

それはわからないし、無理に詮索するつもりもない。

けどルナが苦しんできたってことはわかる。

それこそ何千年もの間、誰にも話せず独りで苦しんできたんだ。

そんなこと知ったら放っておけるはずない。

目の前で泣いている女の子1人救えないでどうやって大切な人たちの笑顔を守るって言うんだ?

できるかなんてわからないし、アルフリックを救える確証もない。

そもそもあいつ自身が救われたいと思っているかどうかすらもわからない。

それでもこのまま見ていることなんてできない。

平穏至上主義?

違うだろ!

平穏に生きることと無関心を貫くことは同義じゃない。

心なくして平穏なんてない。


「ルナとアルフリックが救われたいと思っているとか楽になりたいとか俺には関係ない。俺が助けたいかた二人を助ける。これは完全なる俺の自己満。付き合ってくれるか?」


そう言ってルナに右手を差し出す。

穢れのない、血に染まっていない手。

傷つき、それでも何かを成そうとした手。

アルフリックの手とは違う。

綺麗な手だ。

だけどその手から滲み出ているものには不思議と似通った所がある。

どこが、とか具体的にはわからないがやはり根本的なところで2人は似通った存在なのかもしれない。



「ずいぶんと自分勝手な英雄ね。」


左手でほほを伝う涙を拭う。

そして右手でリュースティアの手を握り返す。

彼女は笑った。

その顔には涙も悲しみの色も浮かんではいなかった。



「それで?具体的にどうするつもり?」


握りあった手を放す。

2人は無言のまま座りこの世の物とは思えない聖域の景色をぼんやりと眺める。

肩が触れるか触れないかの距離。

そこにいる、確かな感覚を与えてくれるこの距離が心地よかった。

リュースティアから何か言うつもりはない。

ルナが落ち着くのを待つつもりだった。

だが想像より立ち直りが早かったらしくルナが前を、聖域の景色を見ながら声をかけてきた。


その声はもう震えていない。


「えっ?特になんも考えてないけどまぁまだ先になりそうだし大丈夫だろ。」


まさかのノープラン。

あれだけ偉そうに講釈をたれてたにも関わらず楽観主義に落ち着く。

さすがリュースティアと言えばそれまでなのだが、、、、。


「バッカじゃないの!?」


当然ルナの怒声が飛ぶ。

まぁリュースティアはこうなるのがわかっていたので苦笑いするしかない。

だけど良いことも1つだけある。

いつも通りのルナだ。


「ああ、俺はバカで間抜け。自分勝手な英雄だよ。それでもついてきてくれるんだろ?頼りにしてるぜ、ルナ。」


ニヤリ。

思わず口許が緩んでしまう。

先のことはわからない。

アルとの戦いがいつになるかも。

それこそ明日かも知れないし何十年後かもしれない。

だけど今はここでルナと笑いあえる。

それはきっと素晴らしいことだと思う。

死ぬかも知れないし死ななかったとしても俺が俺のままでいれなくなるのかもしれない。

それでも俺はルナとアル、みんなで笑いあえる未來のために戦う。


「ほんっとどうしょうもないやつ。

けど.......。ありがとう。」


ため息。

間。

そして聞こえてくる囁き。

ルナの顔はみない。

きっと見られたくないだろうから。

だからその分一言に全てを込める。


「おう!」


常闇を照らす月光が二人を包む。




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