第134話  月の憂い

「ええ、そう。アルフリックはあなたと同じ。破壊の神から破壊のスキルを与えられた人間。リュースティアのように異世界から来たのかはわからないけれどね。」


自分と同じ。

その言葉に反応し、口を挟もうとしたら先手を打たれた。

どうやら黙って聞け、ということらしい。


「神が彼に与えたスキルは人の手に余るほどの強力なものだった。誰もがうらやむような最強のスキルと言っても過言ではないほどにね。けどそのスキルを賜った本人、彼にとってはただの重荷でしかなかったの。彼は破壊を好まない優しい子。どこにでもいる普通の男の子だった。だから彼は自らのスキルを嫌悪し、自らのためには一回もそのスキルを使わなかったし、だれにもスキルのことを打ち明けることはなかった。だけどある日、彼は今のリュースティアと同じように突然全てを悟ったわ。」


リュースティアの真剣な眼差しに促されたのか、ルナは淡々と話を始める。

その表情はつらいのか、悲しいのか、怒っているのか、よくわからない顔をしていた。

たぶん無表情を装おうとしてうまくいっていないのだろう。

それほど彼女の中でしこりとなっているできごとなのかと思うと話を聞く方も自然と表情がしまる。


だがそんな、最初は言いにくそうにしていたルナも話し始めてしまえば話している方が楽なのか一気に仔細を語りだした。

表情は相変わらずだが話しているうちに彼女の中で何かが吹っ切れたようだ。


「彼はね、裕福ではないけどそれなりに生活のできる小さな村で暮らしていたの。その村の子供たちはみんな、将来は冒険者や騎士になることが夢で毎日木剣で鍛錬をしていたわ。彼もそんな夢を見る子供の一人だった。けど彼には剣の才能も魔法の才能もなかった。けれどその分、彼は器用になんでもこなせたの。だからそれを生かして村で便利屋のようなことをして生きていくと決めたのね。夢はあきらめたけど全く気にしていなかった。彼はこの村が好きだったから。母も父も彼が小さい頃に他界していたけど村の人々がいたから寂しくはなかった。だからこの村で生きていくことになんの抵抗もなかったのだと思うわ。」



アルフリックの過去。

当然だけどあいつにも子供の頃があったんだよな。

きっとあいつにも大切だと思える人たちがいたはずなんだ。

自分の村を好きといえるような奴が何で。

なんで平然と他人の大切を奪えるんだよ。


「いったい何があったんだよ?その話が事実ならあいつは普通の人だ。あの時のあいつとはどうやっても結びつかない。」


ここからが話の本題になるのかルナの口が止まる。

言いにくそうにその口をきつく一文字に結んだままだ。

リュースティアが何を言ったところで彼女の決意が固まるわけではないのだが何か言わずにはいられなかった。

これはアルフリックの話だが俺の話でもあるから。

否、俺のこれからでもあるから、だ。


「彼はすべてを悟ったの。」


ルナはさっきと同じ言葉を繰り返す。

どういうことだ?

そう口を開こうとしたリュースティアだったが1つの可能性にたどり着き口元まで出かかった言葉を飲み込む。

もし俺が考えていることがそうだったとしたら?

さっき俺の意識に流れ込んできたスキルの記憶をあいつも見たとしたらきっと行き着く先は、、、、、。


「あいつは村を破壊、したんだな。自分の手でその村を、そこに住んでいた人々を、生き物を、家を、畑を、そこにあるすべてをその力でもって無に帰した。ルナ、俺の考え、間違っているか?」


「いいえ、間違っていないわ。リュースティアの考えている通り。彼は自分の生まれ育った村を無に帰し、その場を後にした。」


やっぱりか。

そういうことだろうとは思っていたけどそんなのあんまりだ。

それじゃああいつが救われない。

けど、じゃあ悪いのは誰?

自らの使命に逆らえなかったあいつ自身か?

それともあいつにそんな運命を背負わせた神か?

違う。

なら、この世界?

それも違う。

たぶん、創造と破壊、そこには善悪の概念すらない。

始まりと終わり。

終わりがあるから始まりが来る。

始まりがあるから終わりがある。

そこに善悪なんてちっぽけなものはきっと存在しないのだろう。

善悪なんてしょせん人間が作ろ出した意識にすぎないのだから。

人間を超越したところでは人間が作り出した意識など霞でしかない。


なら。

なら、なんで俺はこんなにも心が晴れない?


俺は、俺には使命がある。

たぶんあいつにも。

そして俺たちはどこかで必ず剣を交える。

それはいうなれば運命で決められている。

それはわかっている。

より大きなもののために俺はあいつを止めなければいけない。


俺は、アルフリックを殺す。

あいつは、俺を殺す。


創造神は破壊神を殺す。

創造神は破壊神を殺す。


そうして世界が生まれる。




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