第135話 月は闇夜を照らす
*
「それであいつは魔王になったってことか。じゃあなんであいつは今、勇者なんてやってんだ?」
いくらか落ち着きを取り戻したリュースティアは真っ先に出てきた疑問をルナに説いてみた。
世界云々はまたあとで考えよう。
俺の感覚だけどまだ決断する時じゃない。
「そればっかりはわからないわ。ある時から彼は魔王ではなく勇者と名乗るようになっていたの。そして彼が勇者と名乗るころには彼が魔王だということを知っている人間は誰もいなかった。」
「誰も、って少なくとも精霊たちは知ってたんじゃないのか?それに長寿の種族だっているし、魔王なんて災害級のもんなんかの資料とかに残ってなかったのか?」
魔王の脅威って後世に残すべきじゃね?
とか思っちゃったけどさすがにそんなノリで突っ込んでいい雰囲気じゃないので自重しよう。
というか最古の精霊であるルナが分からないってもはや絶望的?
「リュースティアもうすうす気が付いているんじゃないの?彼は破壊の神の眷属。自分の存在を偽るためにすることなんて一つよ。」
まさか、、、。
「あいつはその時代を終わらせたのか?破壊の神の眷属として?」
まさか、そんなことが現実にあるのか?
1つの時代を終わらせるなんて行為、人間に許されるものじゃない。
それに一体どれだけの命を奪ったか考えるだけで気が狂いそうだ。
現にあいつも、、、、、。
「ええ、あの子はそれで使命を果たせると思ったのかすべてを破壊した。それこそ精霊、幻獣、魔物、魔族、人族、妖精族、亜人、巨人族、命あるものの芽をすべて根こそぎ無に帰した。だけどあの子はそれでも使命を果たせなかった。神はあの子を楽にはしてくれなかったの。そして再び生命が芽吹き始めたころあの子は勇者として人々の前に立っていた。あの子が使命を果たせなかった理由、リュースティアにはわかるんじゃない?」
「俺が、、、。俺がいなかったから?」
「ええ、あの子の使命は彼一人では決して成しえないもの。創造と破壊、二つがそろった時初めて運命が動きだす。」
ああ、それは俺もわかっていることだ。
さっき嫌って程スキルの記憶ってやつを見せつけられたからな。
だけど俺がこの世界に来たのは約1年前。
あいつは少なくとも何千年も前からこの世界に存在していた。
来るかもわからない創造神の眷属を待って。
1人では決して成すことのできない使命を抱えて。
誰にも打ち明けることもなく、だれとも同じ時を過ごせず。
「そんな、、、、。そんな孤独な話があっていいはずがない。」
「泣いてるの?リュースティアは優しいのね。」
泣いてる?
誰が?
俺が?
ルナに言われ自分の手で頬をぬぐい初めて自分が泣いていることに気が付いた。
頬を拭った手が濡れていた。
「俺は、俺はあいつを助けたい。何千年もあいつは1人で、だれにもきづかれないように泣いていたんだ。運命がどうとかそんなの知らない。どうにかしたいなら神様が勝手にやればいい。俺は俺が思う通りに俺の力を使う。そして俺はあいつを助けたい。仮にあいつの心が声の届かないほど深い闇に落ちていたとしても俺がそれを救いあげてやる。そんで一発ぶん殴る。」
これはリュースティアの本心だった。
本気で彼を、アルフリックを助けたいと思った。
自分を殺そうとした相手を、だ。
あいつに同情したとか、かわいそうだとかそんなんじゃない。
ただ神だからって理不尽を押し付けるような存在の言いなりになんてなりたくない。
あいつのためじゃなく、俺自身のためにあいつを救う。
「お願い、リュースティア。あの子を、アルフリックを救ってあげて。誰かの手なく、あなたの手で。」
か細くよわよわしい声が聞こえた。
震えている。
そして見るとルナが泣いていた。
滝のように流れる涙を隠そうともせずにただ泣いていた。
子供のように、今までため込んでいたものをすべて吐き出すかのように、泣いていた。
そしてその様子を見たときにリュースティアは気づいた。
時代が命が終わりを告げたはずなのにルナは一度も死んだことがない。
神代からの記憶を持ち続けていることの意味に気が付いた。
「ルナ、君ははアルと契約していた精霊なんだね。」
月のような少女は涙に濡れた表情で笑った。
それが答えだった。
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