第126話 1週間の過ごし方 ルノティーナver.


「うーん、やっぱりもうこの辺りには強い魔物いないわね。もう少し奥に行こうかしら?」


ルノティーナが剣を収めながらそんなことをつぶやく。

彼女の横には今にも崩れそうな屍の山がそびえたっている。

これらは言わずもがな、ルノティーナの午前中の成果だ。

少しでも借金を返そうと今日一日は森にこもると決めていた。

だが先ほどから現れるのはⅮランク以下の魔物ばかり。

これではいくら倒しても大した金額にはならない。


「やっぱりこの前の乱獲がよくなかったわね。うーん、あんまり奥に行ったら今日中に帰れなくなっちゃうしなぁ。」


などとつぶやきながらも襲ってくる魔物の相手は抜かりなくこなす。

そもそも彼女が乱獲をしたためにギルドから討伐依頼が消え、魔物の素材の買い取り価格も暴落したのだが。

つまり全ての元凶はルノティーナに始まり、ルノティーナに終わる。


「うん、決めた!今日はおもいっきり体を動かしたいしもう少し奥まで行こう。みんなには伝言をおくるとして。よし、ってことで、まずはこの状況をどうにかしないとね!」


そう言って鞘に納めた剣を再び抜く。

すでに周囲は複数の魔物に囲まれている。

退路はない。

もっとも彼女に退路など必要はないのだが。


「はい、おーわりっと。」


周囲を囲む魔物を駆逐する時間わずか数秒。

速さだけならリュースティアにも匹敵するルノティーナだ。

いくら攻撃が軽いと言っても相手はDランク、一撃で絶命させることなどたやすい。



「風太出てきなさい。」


「はっ、我が主!」


ルノティーナが読んだのは彼女が契約している幻獣であるユニコーンの風太だ。

シルフの気まぐれで加護ももらっている、召喚獣としてはかなり高位の存在なのだ。

しかし主に似て残念な馬であったりするのだがまあそれはいいだろう。


「ちょっと屋敷まで伝言をお願いしてもいいかしら?」


「はっ、主の頼みとあれば。」


そういって後ろ足で立ちながら嘶く。

風太にとってはたとえ伝言だろうとルノティーナのために何かできるだけでうれしいらしい。

もはやそこにプライドなどはない。

これではシルフにただの馬といわれても仕方がないだろう。


「じゃあ私よろしくー。風太も終わったら来る?たまには一緒に修行でもしましょよ。」


「はっ、喜んで!この風太すぐにでも伝言を届け再びはせ参じましょう。」


よほどルノティーナと修行できるということがうれしかったのかそこら中に土煙を巻き上げ疾走していく。

そしてすぐにその背中は見えなくなった。


「って風太、私まだ伝言の内容伝えていないんだけど、、、、。」


やはり風太はただの駄馬かもしれない。

自分の召喚獣でありながらそんなことを思いつつ念話で伝言の内容を伝えるルノティーナであった。




「さ、ここからは私も気合入れていかないとね。」


森の境界線である川を越えたところから魔物の強さが劇的に上がる。

Sランクであるルノティーナの命が脅かされるほどではないが気を引き締めるにこしたことはない。


「っと。やっぱりやるならこれくらいの相手じゃないと斬り合いがいがない、わねっ!はぁ!」


向かってきたのはAランクに指定されている雷狼サンダーウルフ

属性は言うまでもなく雷。

魔物のくせに雷の固有魔法を使うことのできる数少ない上位種である。


「うわっと。もう、危ないわね!」


背後から仕掛けてきた攻撃を危なげもなくかわしながら一撃を加える。

だが先ほどの魔物と比べ防御力が高く一撃で絶命させるには力が足りない。

しかしそこは持ち前のスピードで敵を翻弄し攻撃を入れていく。


「主!主!あるじーーーーー!」


とそこへ伝言を伝えてきた風太が合流してきた。

そこからはただの一方的な蹂躙劇が繰り広げられるだけだった。

それはもはや巨大な台風が通りすぎたかのようにあたり一帯を更地へと変えていた。


「風太、今日はここまでにして野営の準備でもしましょ。」


「はっ。時に主、今日はどうされた?戦い方がいつにもまして荒れていたように見えましたが。」


火を起こし夕食の準備を始めると風太がそんなことを言ってきた。


「んー、ちょっとね。」


風太が言うように戦闘中も常にリュースティアのことが頭から離れなかった。

じっとしているとなんだかんだで考えてしまうのが耐えられなくて狩りに来たものの結局考えてしまう。

リュースティアと婚約することに関しては何も思うところはない。

だが不安なのだ。

自分が本当に彼に受け入れられるのか。

リュースティアの大切に自分も入ることができているのかが。

リズとシズ、それにスピネルが大切にされていることは見ていればわかる。

そこの輪に入れないことが怖い。

だから必要以上に明るく、自分に自信があるようにふるまうのだ。

そうしていないと不安に押しつぶされそうになるから。


「主、僭越ながら言わしてもらいます。主が何を迷っているのかはわかりかねますが、主は主のままでいいのです。他の者が何を言おうと我はそんな主にどこまでもついていきます。」


「うん、ありがと風太。」


ルノティーナは隣で心配そうな表情を浮かべている風太を撫でてやる。

別に風太に何かを言われ宝といって何かが変わるわけではない。

それでも自分を心から信じてくれている者がいるだけでこんなにも心強い。


「まっ、だめでも居候は続けられるし。リューにぃ次第だもんね。よし、明日もいっぱい稼ぐぞー!」


「はっ!」


夜の森に1人と1匹の声がどこまでも響く。


きっと明日も晴れる。

そんなことを思って眠りにつくルノティーナなのであった。













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