第124話 女難の相がでているようで。


「それでラウス様、今申し上げた通り、リュースティアさんと婚約することに関して私たちには異論がありません。」


「そうか。ならばこちらもそのつもりで動くとしよう。だがいくらリュースティアといえこれで堕ちるとは考えにくい。ポワロよ、何か妙案はあるか?」



良いことを思いついた。

そういって勢いよくソファーから立ち上がったルノティーナ。

そして良いことと言いながらもルノティーナの顔に浮かぶのは完全に悪い顔。

どうせろくな事ではないのだろう。

そう思ったその場の全員が彼女の”良いこと”をスルーする。

なるべく視界にルノティーナを入れないように話を進めていく領主一行。

ただ扉の前で控えている若いメイドだけがそんなルノティーナに憐れみの視線を送るのだった。


「彼は優しすぎるんだ。だから必要以上に自分を追い込んでしまうところがある。それにとても不器用だ。だから他人に寄り掛かるということができない。そして彼は自分がそうだということも、自分の限界、無力さも知っているんだろうね。だから身近な人を守るだけで精いっぱいだと、そう言って大切を増やさないようにしているんじゃないかな?」


「お父様、すごいわ。まるで見てきたみたい。」


「当たってると思います。リュースティアさんは強くて、弱くて、優しいんです。」


「ふむ、さすがポワロ。明晰だな。」


三者三様にポワロ伯爵の分析力をほめる。

普段の温厚な態度からつい勘違いしてしまうが実はこの人、かなりの切れ者だったりする。

王都にいたころはその頭脳で名を馳せ政務官として領地に来てほしいという頼みが途絶えなかったとか。


「ほめたってなにも出ないよ。それよりもだからこそ難しい。悪く言ってしまえば彼はできないことはやらない。失敗を恐れる臆病者なんだからね。」


「「そんなことない!(です!)」」


久しぶりのユニゾンで父親の意見を真正面から否定する双子。

それもそうだろう。

今までリュースティアが直面してきたことをほぼすべて知っているのはこの二人なのだ。

リュースティアが悩み、傷つき、立ち上がるのを見てきた二人がリュースティアを臆病者呼ばわりすることを許せるはずがない。


「言い方が悪かったね、もちろん私だって彼が臆病者だなんて思っていないよ。彼は常に最悪を想定して行動しているんだろう。それに彼は優しいから他人の痛みが分かってしまう。だからこそ自分を守るために必要以上に手を広げないんだ。手が届く範囲なら守れる、守れれば傷つくこともない、そう思っているのかもしれないね。」


あまりにも的を得た言葉に思わず言葉に窮してしまう。

正直に言えば心あたりがありすぎた。

そしてそれと同時に心に迷いが生じる。


守れなかった、救えなかった時の痛みを何よりも恐れているリュースティアにこれ以上守るものを増やすような選択肢を現在進行形で守られている私たちが与えてもいいものだろうか?

自分勝手な理由でリュースティアを傷つけることになりはしないか?



「あーもう!ねぇ、少しくらい私のこと気にかけてくれてもいいんじゃない⁉さっきからメイドさんの憐れむような視線が痛いんだけど。」


そしてここでも重い沈黙を破るのはもちろんルノティーナばかだ。


「ティナ?まだいたのね。」


そして完全に存在を忘れられていたらしい。


「ひ、ひどい。それはさすがの私でも心にかなりのダメージがくるわね。」


そういって大げさに胸を押さえるルノティーナ。

そんな行動に少なからずみんなイラっとする。

それでも顔に出さないという分別はあったのか見なかったことにして先を促す。

もっともその表情は限りなく固かったが。

無理をしているのがバレバレだ。


「そうね、まず私もリュースティアの婚約者になるわ!正妻が上級貴族なら体裁は問題ないでしょ?それに私もSランク冒険者だから名誉だけど一応貴族だしね。それに私とはこの領地にとっても利があるはずよ。ラウス様なら私の言っていることわかるわよね?」


悪ふざけのように話し始めたくせに最後は真剣な表情になっていた。

もう笑っていない。

そんな急激な態度の変化に驚きつつも領主以外は婚約者になる、そのワードしか頭に入っていないようだ。


いきなりなにを言ってんの?

婚約者?

そんな簡単になれるもんだっけ?

あっ、こいつバカだった。


多分全員が思った。


だがルノティーナの主張もただの妄言と切り捨てることもできない。

まず、一夫多妻が認められるこの国では何人妻がいても問題にはならない。

それに彼女のいう通りSランク冒険者も名誉男爵とい立派な貴族である。

体裁を保つために正妻の座は姉のリズがつくであろうがそれ以外であれば下級貴族や名誉貴族が嫁入りしたとしても問題ない。

兵力を考えてもSランク冒険者がこの地に二人いるということはでかい。


それに何より

それこそ何よりも強い交渉材料になっている。

そしてこの場ではその価値を知っているのは領主だけ。

他の者は何のことかさっぱりだ。


「そう、ティナも。けどいいのかな。リュースティアさんに重りを背負わせてしまうことにならないか、傷つけることにならないか、不安なんです。」


「リズ考えてみなさい!夫婦はそう、助けあうのよ!だからリューにぃが重いというなら私たちで半分持てばいい。リューにぃがつらいなら私たちが支える。痛いというなら私たちが癒す。傷ついたのなら、涙するなら私たちでそれを受け止めるの。三人もいれば一人の負担なんて軽いものよ!ね?みんなでつらいことを乗り越えて楽しいことはみんなでめいいっぱい楽しみましょうよ!それが夫婦でしょ?」



だから私もリューにぃの婚約者になるの!

ふふふ私の禊はリューにぃのものになるのね。

それにこれからは毎日本気で剣を交えられるわね、妻として!


そういって締めくくるルノティーナ。

どこの世界に夫婦で斬り合うやつらがいるんだよ⁉

みんなの内心のツッコミは絶対に一致していた、とだけ伝えたい。

良い話だったのに最後が残念なのは彼女脳筋らしいといえばらしいのだが。


しかしそんな言葉でもリズとシズには届いた。

助け合えばいい。

心から不安が消えた。






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