第122話 リュースティアは気付いた
「あーあ、どうすっかねぇ。」
帰りの馬車の中でそんなことをつぶやいているのはもちろんリュースティアだ。
馬車にはリュースティア1人だけ。
愚痴をこぼしても聞き咎められることはない。
なぜ帰宅する馬車にリュースティア1人だけしか乗ってないのかと言うと城から帰されたのがリュースティアだけだったからである。
平和な世界実現の理想を語られたあと、領主さんはすぐに決められることではない、そう言ってリュースティアに考える時間をくれた。
といっても1週間ほどなので急であることには変わりがないが。
まぁそれでどんな決断をしたとしてもそれこそすぐに領主さんが身を引くわけではないので心構えの問題だろう。
考える時間をくれたとて、領主になることなど興味はない。
つまり現時点で答えは決まっているようなものだ。
なにせ平穏無事、それここ普通に生きることが今回の人生の目標である。
領主になったら普通からはかけはなれた人生になってしまうことは間違いない。
そもそも自分は領主などという器ではない。
それは自分が一番わかっている。
だが領主さんの言葉を一笑できない理由もあるのが痛い。
一番大きいのはお金だろう。
領主さんの養子になれば借金は全額チャラ。
商業ギルドにも話を通してすぐにお店を再開する許可をくれるとまできた。
しかも領主権限で珍しい食材などを優先して回してくれるらしい。
立場的には上級貴族になるのだが基本的に今まで通りの生活をしていても構わないとまで言われた。
まさに至れり尽くせりの大盤振る舞い。
この条件には正直かなり心が揺れている。
なによりケーキを作り続けて良いというところが魅力的だ。
もちろんやらねばならないこともそれなりにはある。
だがそれでも今まで通りの生活が送れる。
いきなり城で貴族生活しろとか言われたら速攻で断ってた。
「いや、なに考えてんだ俺。目先の人参につられたってろくなことないだろ。」
危ない危ない。
好条件につられてつい領主になってもいいかもとか思ってたよ。
俺は普通に生きるんだ。
「平和に生きたいなぁ。」
しみじみとそんなのとを呟く。
さすがの鈍感リュースティアもそろそろ自分の異常さにうすうす気がついている。
どうやら自分の力が異質であることや神と言う名のくそじじいに目をつけられていることとか。
普通の人が普通に生活をしていれば絶対に出会うことのない魔族や魔王と剣を交えたこととか、精霊との交遊があることとか。
こっちの世界での生活にもだいぶ慣れて余裕が出てきたからか冷静に考えて転生してからの約半年間、密度濃すぎじゃね?
とか今更ながら気が付いたのだ。
おせぇよ!
リュースティアの異常さをおそらく本人より性格に把握していたであろう人々は口を揃え声を大にしてそう叫ぶのだろう。
まぁ等の本人は自分しかその異常さに気が付いていないと思っていたりするのだが。
「つかそれなら今さらか?」
などと考えてしまう。
どうせ普通な人生がおくれないのであればむしろ領主になったほうがなにかと後ろ楯ができていいかもしれない。
というか領主になればアルのこともなんとかなるんじゃね?
あっ、やばい。
領主になるメリットの方がでかくなってきた。
「うん、一回考えるの止めよう。」
馬車に揺られ流れる町の景色を眺めながらリュースティアは思考を放棄した。
明日考えればいいよね。
いまだにそんなあまい考えを持つのであった。
時間をかければかけるだけ外堀が埋まっていくこととも知らずに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます